結露の怖さ~高気密の歴史とナミダタケ

こんばんは。さすけです\(^o^)/

引っ越し後のブログ第一弾となりますm(_ _)m
これからもどうぞよろしくお願いします!

前回は結露の発生原因について少し理屈っぽく書いてみました。
今回は、なぜ結露が怖いのか?について、ちょっと歴史的な背景を振り返って書いてみたいと思います。

唐突ですが、皆さん、「高断熱高気密住宅」ってなんで常に高断熱と高気密がセットになっているのだろう?と思った事ありませんか?

営業さんなんかは良く、「すきま風が~」なんて話をしていますが、別に間違ってはいるわけではありませんが、「気密」の本質は「すきま風」なんていう生やさしいものではなくて、家そのものを崩壊させかねないような秘密?があるのです。

そこには、高断熱住宅の存在そのものをも脅かしたある事件があったのです・・・

高断熱住宅の成り立ち

日本の家づくりというのは旧来、通風を重視した今で言うところの「低気密住宅」が基本でした。

鎌倉時代の作家である吉田兼好がその著書であり、日本三大随筆の一つである徒然草の中で
「家の作りやうは、夏をむねとすべし。 冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。」(家づくりは夏の住み心地をを基本とすべきである。冬はいかようにでも生活できるが、夏に暑い住居というのは耐えられたものではない)

と述べているように、多湿な日本においては、夏の涼しさを重視した家づくり、すなわち、通気性の良さに重点を置いた家づくりが重視されてきました。

しかし、現代、それが良いことか悪いことかは差し置いて、多くのエネルギーを消費してエアコンを用いることによって、冬の暖かさのみならず夏の涼しさも手に入れられるようになりました。

ただし、その生活には多くのエネルギーを消費する必要がありました。。。

オイルショック

1973年、まだエアコンの普及率は10%程度でしたが、ストーブを含めた暖房は多くの家にありました。

冬場に灯油などを多く消費する暖房器具に大きな問題が発生しました。そう、オイルショックです。

オイルショックをきっかけに、世の中は一気に「省エネ」がブームとなりました。

住宅で使用する冷暖房費も当然「省エネブーム」のターゲットとなりました。

そこで、住宅業界では「断熱性を高めて省エネを推し進めよう」という機運が高まりました

特に冬の灯油消費量が多かった北海道では、当時はあまり行われていなかった新築時に断熱性を高める工事として、100mmのグラスウールを壁や天井に詰め込む断熱が行われるようになりました。。。

この時点で国内には「高気密」という概念はありませんでした

当時建てられたのはあくまで「高断熱住宅」だったのです(もちろん当時の基準で、です)。

これで極寒の冬も暖かな家で過ごすことができる・・・・

そう考えて家を建てられた方に悲劇が襲いました

ナミダタケ事件

北海道で高断熱施工が行われるようになって数年、あり得ないことが起こりました。

1970年代後半、断熱施工をしたのに家はいっこうに暖かくなりませんでした。。。それどころか、新築から2、3年しか経っていない家の床下や基礎が腐ってしまい、家自体が住めないような状態になってしまったのです。北海道では札幌市だけで数百軒のお宅がこのような状況になったと言われています

断熱性能を高めただけなのに、家が崩れる、そんなことが起こってしまったのです。

それらのお宅の床下を見てみると、ナミダタケというノドタケ科の木材腐朽菌が木材を腐らせていたのです。。。ちなみにナミダタケという名前は、ナミダタケが成長する過程で、涙のように水を滴らせることから来たそうです。

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ナミダタケが腐らせた床下 引用元

ナミダタケはなぜ繁殖したのか?

ナミダタケが繁殖してしまった原因は結露でした!

床下を中心に結露が生じ、結露によって水分を得たナミダタケが繁殖してしまっていたのです。

結露の原因は?

ではなぜ床下にこれほどの結露が生じたのでしょうか?

この「結露」こそが、現在の高断熱「高気密」住宅へと繋がっていくのです。

当時の住宅では「気密」という考えはなく、断熱材だけが詰め込まれました。

その結果、室内の湿った空気は断熱材として施工されたグラスウールの中に浸透していきました。室内側に接したグラスウールは暖かく湿った空気に接しています。一方、外気側に近づくに従って、北海道の冷えた空気にさらされグラスウールの中も冷えていきます。

前回書いたように、湿った空気が冷やされると結露を生じます・・・

そうです。グラスウールの中で結露が生じたのです

その結果、グラスウールの中に生じた結露が隣接する木材を常時湿らせナミダタケを繁殖させてしまったのです。

繁殖したナミダタケは木材を腐らせ、たった数年で、床が抜け落ちるような事態を生じさせたのです。

以前、私の家の床下が水浸しになったとき、少し焦ったのはこのことを知っていたからでした。

気密の重要性

このことにいち早く気が付き新たな施工マニュアルを作ったのが、現在、室蘭工業大学で教授をされている鎌田紀彦さんでした。鎌田さんたちは室内の湿った空気を断熱材の中に浸入させないようにする「気密」の重要性を指摘しました。これが、「高気密」の始まりです。

鎌田さんは、気密テープなどをしっかりと使って、気密を取り湿った空気が断熱材の中に入らないようにする「新在来工法」を提唱しました。気密・防湿処理が行われていれば、断熱材の中に入ってくる空気は外気側の空気だけという事になります。これであれば、結露を生じることはありません。これが1985年あたりのことです。

ナミダタケ事件をきっかけとして、高気密なしの高断熱は快適どころか、危険でさえある事がわかったのです。

そのため、現在は「高断熱」と「高気密」は不可分のものとなっているのです。

高断熱高気密住宅の広がり

ナミダタケ事件は北海道の多くの工務店に大ダメージを与えました。

オイルショックの影響も残っていた中、当然のように損害賠償を請求された多くの工務店は倒産してしまったり、倒産まではしなくても倒産の危機に瀕してしまいました。。。

そのような逆境の中から、高断熱高気密住宅の芽が出てきたのです。

先日私が検討したハウスメーカーの一つに入っていた「FPの家」を展開していた松本建工もこのナミダタケを発生させてしまい、膨大な損害賠償責任を負うことになってしまいました。松本建工はこの経験を元に、その後、ウレタン系断熱材を用いたFP工法とFPパネルによる高断熱高気密住宅である「FPの家」を開発し、復活に成功しました。

また、高断熱高気密住宅の施工で有名な土屋ホームも、オイルショックとナミダタケ事件の煽りを受けて経営の危機に瀕していました。当時の社長であった土屋公三さんは、最後の海外旅行のつもりで行ったフィンランドで出会った、高断熱高気密住宅を目にして、これを日本に持ち帰ることで倒産の危機に瀕していた会社を回復させ急成長させる事になりました

鎌田さんは、高断熱高気密に関する勉強会である「新住協(新木造住宅技術研究協議会)」を主催しており、工務店などの有志で高断熱高気密施工に関するNPOを立ち上げています。

ナミダタケ事件は、「高断熱」と「結露」が招いた悲惨な出来事でしたが、それを乗り越えて今の「高断熱高気密住宅」があるのだと思っています。

一条工務店やスウェーデンハウスで家を建てようと思っている、と言ったり、高断熱高気密住宅で家を建てようと思っているというと、不勉強な営業マンが「高断熱住宅はナミダタケが繁殖して危険」などと言う人がいます

私は、家というお客さんにとっては人生最大の買い物につきあうことになるにもかかわらず、このような不勉強な人が嫌いです。歴史的な背景、そしてそこを乗り越えてきた人々の苦労に敬意を払うことができる人であれば、例え営業トークでもそのような発言はあり得ないと思うのです。お客さんの無知につけ込む、そういった営業トークはどうしても受け付けません。。。

ちょっと話が変になってしまったので戻します^^;

気密測定の際の目張りについて

以前、気密測定の方法についてブログに書いた際、「目張りをしても良い部分がある」という話を書きました。一般には、換気扇等の計画換気部分は目張りをして測定します。

上記の記事では、目張りをして良い場所がJISに示されているという話で終わっていました。

JISで「目張りをしても良い」という事にも理由があるのです。

換気扇の出入り口のように大きな穴が空いているのにそこを塞いで「気密」を測定しても意味がないんじゃないか?と感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、「気密」で重要なのは床など計画していない場所からの気密漏れです。

計画外の気密漏れが多いのに、断熱性が高ければ結露が生じます。そして、その他の条件もそろえばナミダタケ事件に発展してしまいます。

しかし、換気扇部分などは結露の可能性はありますが、それらの部分はそもそも濡れても問題ないように施工されているので、大きな問題にならないというのも「目張りをして良い理由」の一つです。。

一条工務店の気密と断熱

これはある種の身びいきかも知れませんし、私の推測でしかありません。

一条工務店では断熱材としてEPSという密度が高い発泡スチロールを使っています。また、基礎まわりや外壁周りにはACQやニッソーコートによる防腐防蟻処理を行っています。また、高い気密性を気密測定によって確認してくれています。

なぜグラスウールではなく、EPSを使っているのか?そう考えたとき、万が一気密層が破れたとき、または防湿シートが破損していたとき、そこにグラスウールがあれば結露が生じてしまう可能性がありますが、発泡スチロールであれば結露の可能性は低くなります。そんなことがあって、EPSが採用されているのではないかと思います。

そして、万が一結露が生じてもしっかりとした防腐処理により木材腐朽菌の繁殖を抑える、そんな何重にも渡る丁寧な考えに基づいた設計が成されているように思うのです。

ここで、誤解してはいけないのは「グラスウールは危険」ではななく、グラスウールにはEPSにはない良い面もあります。グラスウールは防火性能が高いです。EPSは難燃処理されているので、自分自身だけで燃え続けることはありませんが、石油製品ですから隣で木が燃えていれば一緒に燃えてしまいます。対して、グラスウールは火が付いても燃えることはありません。

また、現場の施工性という観点からはグラスウールの方が遙かに優れています。EPSを一枚一枚、現場で貼り付けるというのは現実的ではありません。EPSを採用するメーカーが少ないのはおそらくは現場での加工性の問題から、コスト上昇を招くことが原因と思います。この問題に対して、一条工務店は工場でのEPS施工という解を示し、それによって急成長をしています。

一方、そんなグラスウールの良さに着目したのは、スウェーデンハウスであり、新住協です。

スウェーデンハウスや新住協は断熱材としてグラスウールを使用しています。グラスウールも適切な処理を行って使用すれば結露を生じることはないとされています。

その他にも、別のメーカーは発泡系素材の断熱製の高さと施工性の良さを両立させるために、吹きつけによる断熱という手法を開発しています。

いずれか一つの方法だけが「正解」ではなく、それぞれの創意工夫によって、それぞれの条件にあった正解を出しているのだと、私は思っています。

このような話は未だに、営業マンなどの間で「内断熱」v.s.「外断熱」でお客さんにお互いの悪いところばかりを吹き込む宣伝が成されているように思います。

内断熱側は、「外断熱に使うEPSやウレタンは火災に弱い」と言い、外断熱側は「グラスウールを使っていれば結露する」と言います。さらには、発泡系の断熱材を使ったメーカーはだから吹きつけ断熱が一番だ、などと言ったりもします。

こんな事を言うのは、きちんと自分の頭で考えたことがないような営業マンだけとは思います。お客さんの側からすれば、「きちんと考えて施工されていれば」グラスーウルでもEPSでもウレタンでも同等の断熱性と防湿に対する効果を得ることができます。それぞれに一長一短があるだけだと思うのです。

また、一条工務店の例で言えば、全ての壁に必ず防火性能を高めるための石膏ボードが施工されます(まっ、省令準耐火の基準でもあるのですが^^;)。

正直、どちらの施工であっても同等の性能が十分に確保できると思っています。

あとは、どちらの工法がコストを抑えることができるか?すなわち施工を容易にできるかの競争になります。

変な主張をせずに、相互にきちんと競争をしてくれることは結果的に顧客のメリットとなるので、いずれか一つの工法に絞り込まれるのではなく、互いに切磋琢磨してくれている現状こそが望ましい状態ではないかと思います。

ハニカムシェードを閉めたら結露してカビが生えた。

色々と考えてみると、ハニカムシェードを閉めて断熱性能を高めたら結露が生じてカビが生えた、という状況とナミダタケ事件発生の経緯に類似点を感じないでしょうか??

ハニカムシェードは断熱性能も高く、シェードを閉めることで電気代を抑えることもできますし、暖かい家を実現することができます。

しかし、断熱性が高いが故に、結露を生じてカビが生えてしまうのです。今は窓サッシに小さなカビが生えてしまうぐらいですから良い?ですが、私は今の家に何十年も住むつもりでいます。

毎年同じ場所に結露が生じ、それを拭き取る、そんなことを繰り返しても大丈夫なのでしょうか?

一条工務店も、自社の設計でハニカムシェードを標準としている以上、次の方策を考えるべきではないかと思います。