一条工務店がなにやらおかしなことをしている!?一条工務店製蓄電池付き耐水外住宅

こんばんは。さすけです。

台風15号、それに続く19号で多くの方が被災されお亡くなりになられた方のご冥福をお祈りすると同時に、被災された方が1日も早く日常生活に戻れることを願っています。

今回は、昨今急増している豪雨、そして台風の巨大化に伴う水害に関して、一条工務店が「何を考えているのか分からない(褒め言葉)」ような取り組みをしていましたのでご紹介をしたいと思います

一条工務店が、10月2日に私も住む茨城県つくば市で「耐水害住宅」なるものの実験をしていたことをご存じでしょうか?NHKのニュースなどでも放送されていたのでご覧になられた方もいらっしゃるかと思います。

従来、水害、特に床上浸水が発生すると室内は下水の逆流や外から入ってきた泥水にまみれてしまい家電や住宅そのものも大きな被害を受けることがあたりまえでした。そして、その被害は深刻な者となっていることは、今般の台風19号の被害からも明らかです。

これに対して、一条工務店では「耐水害住宅」として、河川の氾濫などによって水深1mまでの水害が発生しても住宅の浸水を防止する機能を有した住宅を開発し、その公開実験を行いました。一条工務店では、この耐水害住宅を来春を目処に販売開始するとしており、金額的にも+50万円程度で実現すると述べているのです。

この耐水外住宅は、端的に言ってしまえば「住宅を防水にしました」というものです。私はこの「耐水外住宅」という話を聞いたとき、また一条工務店がおかしなことをやっているな~としか思いませんでした。。。

しかし、よくよく考えると他のハウスメーカーの斜め上を行く、非常に一条工務店らしい取り組みであると同時に、考えれば考える程驚くような技術だと思うようになりました。。。ぶっちゃけ、個人的にはグランセゾンは、良いね~、くらいの感覚でしたが、あまり注目を集めていないこの耐水外住宅は本当にスゴイと思うのです。

一条工務店が開発した耐水害住宅とはどのようなものか?

1mの水害が発生しても浸水しない家

耐水害住宅というのが何かというのは、文章で説明をするよりも写真をご覧いただく方がわかりやすいと思います。

10月2日に茨城県つくば市にある防災科学研究所と一条工務店が共同で、耐水害住宅の浸水実験を行いました。

その際の様子が下の写真です。

image

(出典:日経XTECHより)

おそらく、一条工務店のi-smartと思われる仕様の住宅が、洪水にさらされたかのように水の中に沈められています。ドアの取っ手を見ると、水深が1m近くになっていることがわかります。

このような状況にもかかわらず、下の写真のように室内への浸水は一切なく、リビングを模した窓の外に泥水が股下あたりの高さまで沈んでいる状態であることがわかります

image

(出典:一条工務店撮影)

一条工務店が新たに開発した耐水害住宅では、上の写真のように、一定水深(水深1m)の水害が発生しても住宅内に浸水が起こらないしようとした住宅となっているのです。

この一条工務店の耐水外住宅の実験では、下の写真のように右側のi-smartと類似した「耐水害住宅」と隣接して左に建築された「一般住宅」を模した住宅もでも水害実験を行っています。

image

(出典:防災科学研究所報道発表資料より)

そして、左側の一般仕様の住宅の室内では、下の写真のように室内に泥水が浸水し、家具などが浮いてしまっています。

image

(出典:TBS NEWS映像より)

上記のように一条工務店が新たに開発した「耐水外住宅」では万が一水災に見舞われたとしても、室内への浸水を防止することができる仕様となっているのです。

標準費用+50万円、来春販売を目指す

現時点では、あくまで実験レベルの耐水外住宅ではありますが、一条工務店の開発責任者であり、今回の実験の責任者でもある萩原浩氏(盛和塾塾生で一条工務店フィリピン工場HRD24000人のトップとのこと)は当日の実験会場でメディアに対して

「今回の耐水害仕様住宅は多大なコストをかけたり、ハイテク技術を駆使したものではない。少しの工夫を積み上げて実現したものだ。当社の標準仕様に50万円程度のコストを上乗せすれば、十分可能な仕様だ」(萩原氏)

と述べています。さらに、一条工務店ではこの耐水外住宅を2020年春に商品化することを目指していると説明しています。さらには、現在は新築住宅のみを対象としていますが、将来的には既存住宅のリフォームにも対応をしていく予定とのことです。

これまで地震大国である日本においては耐震や免震といった形で地震発生時に生命や財産を守るための設備は、私たちが家を建てる際にも重要な指標となってきました。

しかし、水害に関しては水害を防ぐ住宅を欲しいと思ってもそれを防ぐための選択肢はありませんでした。そのような現状において、一条工務店の耐水外住宅は水害が発生してもそれを防ぐ手段の一つを提示したという意味で極めて重要な一歩と思います。

何よりも先の台風19号の水害を目の当たりにした私たちにとって、そしてこれから家を建てる方で立地の制約上河川の近くや自治体が作成したハザードマップにおいて浸水地域になっている場所に家を建築される方にとってはこの一条工務店の耐水外住宅は一つの有力な選択肢になると思います。

耐水外住宅の意義:命を守るものではなく日常への復帰を迅速にするための手段

ここで、耐水外住宅の「意義」について補足をしておきたいことがあります。一条工務店の開発した耐水害住宅は「命を守る設備ではない」という点は間違ってはいけないと思います。

一条工務店の耐水害住宅で家を建てたとしても、水害発生時に「家の中に居ても安全」というものでは全くありません

この点は、一条工務店もそのように広報をしていますが、耐水害住宅に住んでいたとしても「水害発生時はできる限り早急に避難をすべき」ものです。耐水害住宅とは言っても、耐えられる水深は最大1mです。先の台風19号では最大水深が6mにも達する地域もあり、仮に耐水害住宅であったとしてもこのような水害で生命を守ることが保証されているわけではありません。

耐水外住宅で家を建てたから大丈夫と思って、逃げ遅れてしまえばそれは命を失う選択にもなってしまいかねません。

耐水外住宅に住んでいたとしても水害発生時は逃げるべきである、という点だけは一般の住宅でも耐水外住宅でも同じです

耐水外住宅は水害が発生し、自分が住んでいる地域で床上浸水が発生したとしても一定の水位までは浸水を防ぎ、家財を守り、水が引いたあとすぐに日常生活に戻れるということが最大のメリットであり、それ以上でもそれ以下でもありません

この点は耐震/免震住宅と耐水害住宅の大きな違いと思います。

耐震住宅・免震住宅では、地震が発生した場合、そこから逃げるよりも室内に居た方が安全を確保できるケースがあります。それに対して、耐水外住宅は水害が発生する予兆があった場合は直ちに避難することが必須となっています。耐水害住宅だから避難しなくても大丈夫、という誤解は命を守るどころか、命を失う危険もあります。まだ、耐水害住宅が販売されていない今だからこそ、これから出る耐水害住宅の意味についてはしっかりと理解しておくことが必要と思います。

では耐水害住宅は意味がないのではないか?というとそれは全く違います。

一度床上浸水が発生してしまうと下の写真のように室内は、泥水、そして下水から逆流した糞尿を含む汚泥によって室内が汚染され、仮に洗浄しても容易に元の生活にもどることはできません。

(出典:災害廃棄物情報プラットフォームより)

こうした被害を免れ、日常生活にすぐに戻れる耐水害住宅という選択肢は非常に意義のあるものと思います。

耐水外住宅ならではの工夫の数々

耐水害住宅は、確かに新しい水害への備えとして非常に興味深いものであることは良く分かりました。しかし、私が本当に感心したのは、その小さな工夫の数々でした。

私が気になった技術的な工夫ポイントについて見ていきたいと思います。

床下換気口のフロート制御

建築基準法で、住宅基礎はその湿気を排出するため床下換気口を設けることが義務づけられています。

一条工務店の床下換気口は北海道以外の地域では、下の写真のように住宅の基礎コンクリートと住宅本体の間に換気スペーサーと呼ばれる合成樹脂製の部材を用いて、その隙間から空気が流れる仕様となっています。

image

耐水外住宅であったとしても、建築基準法で定められた換気口を設けないわけないはいきません。

しかし、上記のような換気スペーサーを使用してしまえばそこから基礎内部に浸水が起こってしまいます。そこで、一条工務店の耐水害住宅では、非常に面白い換気機構を採用しています。

下の写真の部分が一条工務店耐水害住宅における床下換気口となっています。

image

(出典:日刊工業ビデオニュース映像より

写真だとわかりにくいのですが、下の図をご覧下さい。下の図は住宅基礎の断面と思って下さい。一条工務店耐水害住宅では北海道仕様の住宅と同様基礎に穴を開けて換気口が作られており、この換気口から外気が入って換気を行う仕組みとなっています。

image

しかし、このままでは当然ですが水害発生時に換気口から水が基礎内に入ってしまい浸水してしまいます。

そこで、一条工務店耐水害住宅ではここに一工夫をして、下の図のような換気機構を設けています。

image

換気口の基礎内側に、上部に穴を開けて空気が上部に流れるようにしたボックスを設置しています。通常時は外から入ってくる空気は換気口から入り、ボックスを通じて上方に流れることで床下の換気が行えるようになっています。

そして、水害が発生した際には下の図のように住宅の外に水が襲ってきたとき、その水が床下換気口から流れ込みボックス内に水が満たされていきます。それと同時にボックス内に入っているフロート板が水の浮力で押し上げられ、ボックス最上部に来ると水圧で強くフタをすることで、床下への浸水を防ぐ機構となっています。そして、水害後水が引けば自然とボックス内の水も外に排出され、元通りの換気口になります。

image

この仕組みは、笑ってしまうほどシンプルである一方で、水の浮力と水圧をうまく使っており、極めて合理的な仕組みとなっています。

もちろん、直感的にこのフロート版が斜めになってしまう可能性や、また、水害時の細かな砂利やその他のゴミを多く含んだ泥水であることを考えると、どこまで機構がしっかりと稼働するかという点はおそらく課題としてあろうかと思いますが、非常にシンプルかつ低コストで基礎内への水の浸入を防止するよくできた機構と思います。

一般に市販されている換気口の床下浸水防止装置は、人間が事前にフタをしなければならないタイプや、はたまたより複雑な機構を採用することでおそらく高コスト化してしまう(後付けできるメリットがある)といた問題があるのに対して、言い方は悪いですが非常に安っぽく見える装置、そして事実安いであろう装置で合理的な基礎の防水対策を行えている点は非常に面白いものとなっています。

ざっと調べた限り同様の装置が市販されているものが見つけられなかったので一条工務店が耐水害住宅用に独自に開発したのかな?と思われます。

住宅のドアにパッキン^^;

続いて、ドア部分の工夫についてもご紹介します。

通常の玄関ドアはある程度密閉度がありますが、防水ではありません。ましてや一条工務店耐水害住宅では水深1mまでの水害に備えるということで、下の画像のように玄関ドアの取っ手部分まで水が来てしまうような状況を想定した仕様となっています。

image

(出典:NEWS Daily映像より)

ここまで水が満たされてしまえば密閉度の高い玄関ドアでも浸水を防ぐことはできません。

それに対して、一条工務店耐水害住宅では、下の画像のように、ドアにパッキンを取り付けています。。。

image

(出典:NNN映像より)

このゴムパッキンも、非常に当たり前なのですが、極めて合理的に水圧を利用しています。

玄関ドアは外開きが基本です。そのため、万が一屋外まで水が来ると玄関ドアは強い水圧によって内側に押されます。このときドアと住宅本体の間にパッキンがあればドアがこのパッキンを強く押し込み浸水を防止する仕組みとなっています。ちなみに水深1mで横幅1mのドアにかかる水圧は約5トンになりますから、パッキンはドアと家をぴったりと密閉することが可能となります。

もちろん、問題点を挙げればこのようなパッキンが設置されている住宅において小石が挟まってしまうと言った問題など色々と問題はあるかも知れませんが、解決可能な範囲の問題と思います。

下水の逆流防止弁:是非一般住宅へのオプション化を!

水害が発生した際に被害を、精神的にも深刻なものとするのが「下水の逆流」です。

今回の一条工務店と防災科学技術研究所の実験でも下の写真のように一般仕様の住宅ではトイレの水が逆流が確認されています。

image

さらに、この下水の逆流は浸水をしていない家でも豪雨があった際には多くの家で発生します

比較的低地に建つ住宅では、下水管が満水となるとそれ以上下水を排水することができなくなり、住宅内でも低い位置に水位が設定されている下水管、風呂、洗濯機の排水管、そしてトイレ、キッチンや洗面台という順に下水が逆流してきてしまうことがあります。

実際、今回の台風19号においてもTwitter等で逆流を報告するツイートが見られました。

このような下水の逆流を防止する方法としては下のゴミ袋などに水を入れて水嚢をつくり、それをトイレの中や風呂の排水管、そして洗濯機の排水管といった全ての下水に繋がる排水管に落としておくという方法が現実的な対策となっています。この水のうについてはメディアなどで多く報道されていたので今回の台風に際して対策をされた方もいらっしゃるかと思います。

image

(出典:国土交通省、家庭で役立つ防災より)

これに対して、一条工務店耐水害住宅では、下水管の根元部分に「逆流防止弁」付きの下水管を配置することで下水の逆流を防止しています。

image

(出典:TBS NEWSより)

その結果、下の画像のように外では水害が発生している状況でもトイレなどにおいて下水の逆流が発生しない仕様となっているのです。

image

(出典:TBS NEWSより)

この逆流防止弁付きの下水管は多くのメーカーで製品化されているものを使っているだけなのですが、私はこのようなものがあることを知りませんでした。おそらく、家を建てる方の多くもこのようなものが存在することを知らないでしょうし、また、そもそも自分の家の立地条件から下水の逆流の可能性を判断することも難しいように思います。

一方で、この逆流防止弁付きの下水管はおそらく金額的にはそれほど高いものではないように思います。

耐水害住宅はそれはそれで必要なお宅で採用されるのが良いと思いますが、より多くの方が直面する「下水の逆流」を防止するという観点からも耐水害住宅を発表した一条工務店がこの逆流防止弁付き下水管だけでもオプション化する、なんだったら標準仕様として全ての住宅に採用してくれればと思います。

確かに、それを採用することで顧客獲得のアピールポイントにはなりにくい部分ではありますが、下水が逆流して糞尿の混じった下水が室内に入ってきてしまうと言うのは、精神的にはかなり大きなダメージとなります。それを掃除することも極めて辛い作業となります。そうした状況を防ぐという観点でも是非とも逆流防止弁付きの下水管を標準仕様として採用してくれないかと思いました

室外機はどうするの?と思ったらとりあえず上げておく!

室内への浸水は細かな工夫の積み重ねによって防ぐことができていますが、もう一つの問題は室外にある装置の水害対策となります。

具体的には、エアコンの室外機などですが、これについては非常にシンプルな解決策が採用されています。それは水に沈むことがないよう「持ち上げる」という対策です。

エアコンの室外機は豪雪地域などで採用されている金具を使って水没しないよう高い位置に設置されています。確かにこれであれば水害が発生しても水没することを避けることができます。そして、豪雪地域では既に採用されている金物を流用することで実現できるため低コストで水没を回避できます。

image

エコキュートは持ちあげなくても大丈夫なんだ!

個人的には、耐水外住宅において室外機を持ち上げるというのは想定の範囲内であまり驚く部分ではなかったのですが、室外設備で驚いたことが一つありました。それは、エコキュートの貯湯タンクについてです

一条工務店では販売している住宅の大半がオール電化住宅となっているかと思います。オール電化住宅では給湯設備はエコキュートを採用するのが一般的です。そしてエコキュートには標準で370Lの貯湯タンクがセットになっています。貯湯タンクは常時370Lの水が満タンに入った状態であるため、その重量も本体重量等を含めると500kg近くに達します。500kgの重量物を高さ1m以上に持ち上げると地震等において転倒のリスクを生じさせます。

そのため貯湯タンクはどうするのかな~と思ったいたのですが、貯湯タンクは「沈める」という方針を採用しているようでした。

image

(出典:防災科学技術研究所報道発表資料より)

上記の図の⑥に貯湯タンクがありますが、貯湯タンクは持ち上げられることなく明らかに水に沈んでいます。また、実際の実験場の写真でもエコキュートは一般的な高さに設置されています。

image

確かに貯湯タンク内は水で満たされていますからある程度固定してあれば浮いてしまうということはありませんが、水に沈んでも大丈夫ということが驚きでした。これが一般的な貯湯タンクであるのか?それとも専用の貯湯タンクであるのかは不明ですが、電子基板類さえ上部に設置してあればそもそも高さが2m以上ある設備で、内部は基本的に配管とタンクで構成されているので沈めても大丈夫なのかも知れません???どうなっているか気になった部分でした。

どうなっているか分からないけれどスゴイ部分、なぜ浮かない??

一条工務店耐水害住宅では、本当に細かな工夫の数々によって耐水害住宅を実現していることは分かりました。しかし、本当に肝心な部分がどうしてもどのようになっているか分かりませんでした。それは「外壁」と「浮力」の問題です。

外壁にかかる水圧は14トン以上!?

今回の一条工務店耐水害住宅は延べ床面積約30坪の総二階建てとのことでした。建坪は15坪、約50㎡となります。

延べ床面積50㎡として、横幅8m、奥行き6.25mと仮定すると、住宅の外周部分の長さは28.5mとなります。水深1mの水害が発生した場合、外壁1mあたりにかかる水圧は0.5トンになります。そして、これが住宅の全周から家を潰すかのように強い水圧としてかかり、その合計水圧は14トンに達します。

ガラス窓は、現在一条工務店がi-smartなどでキャンペーンとして提供している強化ガラスが採用されていることは間違いありませんが、それでも通常の外壁はやはり合板を貼り合わせて作っているはずです。今回の一条工務店耐水害住宅は枠組み工法を採用したとされていますから、普通のi-smartと大きくは変わらないと思います。

メディアの報道によれば、外壁部分では防水透湿シートを「弾性系接着剤」を用いて接着することで防水しているとしています。また、「防水塗料」も用いているというメディアもあったのでそういったものが複合的に使われているのだろうと思います。それにしても、それだけで1mあたり0.5トンにも及ぶ力に耐えられるものなのか?という驚きを覚えました。

何よりもの驚き、なぜ浮かない??浮力50トン

この点に触れているメディアがなかったので、もしかすると私が何か勘違いしているのかも知れませんが、なぜ一条工務店耐水害住宅が浮かばないのかが不思議でなりませんでした。

今回の一条工務店耐水害住宅の1階部分面積は約50平米となっています。仮に1mの水害にされされ、かつ住宅内に浸水がなければアルキメデスの原理でそこには「50トン」の浮力が働きます

一般的な住宅の重量は基礎部分を除くと30トン程度とされています。そうだとすると、住宅そのものを浮上させようとする力が20トンもかかっているはずなのです。それにも関わらず住宅が浮いていないのです。

下の写真は私が2011年6月に東日本大震災の津波で被災した女川に行った際に撮影した写真ですが、津波被災地では多くのコンクリート造の強固な建築物が「転倒」させられていました。これは津波によって横から加わる力と同時に、一気に襲った津波が建物内部に浸水する前に浮力が働き、浮上した所を横から津波の力が加わったことで建築物が転倒したかのような事象が起こったことがその後の建築学会の調査で明らかにされています。

image

(撮影さすけ、2011年6月宮城県女川町)

このように浸水した際の浮力というのは巨大な建造物であっても浮上させてしまうほどの力があります。

当然、一条工務店耐水害住宅にも強い浮力が働いているはずですが、全く浮かんでいません。

一条工務店をはじめとした最近建築された多くの住宅では、ホールダウン金物と呼ばれる住宅と基礎を固定する金物が設置されています。下の写真のヘルメットが引っかけられている、ひときわ太くて高さもあるのが我が家のホールダウン金物となっています。

image

(撮影さすけ、建築中の基礎、ヘルメットがかけられているのがホールダウン金物)

この基礎に設置されたホールダウン金物と住宅本体を金具で固定することで地震等によって生じる力で家が崩れることがないよう固定しています。

しかし、このホールダウン金物のせん断応力(引きちぎれる力)は20kN程度となっています。ざっくり2トンの引っ張る力までは耐えることができます。私の家の場合でこのホールダウン金物が4本か6本程度使用されていたように記憶していますので、耐えられる浮力は10トン程度が限界です。

そのため、通常の使用のi-smartでは耐水害住宅が求める1mの水害が発生した場合、家自体が浮き上がってしまうはずなのです。

単純にホールダウン金物を増やせば金物自体は耐えることができますし、今回の実験では「浸水」は実験されていましたが川の氾濫のような「水の強い流れ」までは再現されていないためなんとも言えませんが、仮に川の氾濫を想定した場合ホールダウン金物に係る力は均一ではなくなるため、やはり浮力と川の流れによって浸水しないからこそ「浮いてしまい、津波被災地のように住宅が転倒してしまう」ということが起こりそうに思うのです。

しかし、一条工務店耐水害住宅では、そのようなことがないように対策が取られていると思われます。こうしたことから、なんらかの工夫によって住宅と基礎を通常よりも強固に接合しているのではないかと思います。どのように結合されているのか非常に興味がありますがこの点は不明でした。

これはあくまで推測で、全く的外れかも知れませんが、下の写真の赤矢印の部分にある太い金物?のようなものが住宅の基礎と接合している部分なのかな?とも思います。

image

(出典:日刊工業ビデオニュース映像より

もう少し拡大した写真では、下の赤矢印の部分がこの金物?のようなものとなっています。長さもバラバラなので、単なる実験装置の配管カバーかも知れませんがかなりの太さもあり、金具だとするとかなり異常な太さでありちょっと気になりました・・・

image

あれ?もしかして一条工務店製が蓄電池オプションを販売??

これは今回の一条工務店耐水害住宅とは直接は関係ないのですが、メディアの映像に「一条工務店(ICHIJO)」マークの入った蓄電池が映り込んでいました。

image

(出典:TBS NEWS映像より)

私が知らないだけでもしかすると既に正式オプションになっているのかも知れませんが、上記の写真に「9.蓄電池」と書かれた蓄電池の右上に「ICHIJO」のマークが見えます。

私が知る限り、これまで他社製の蓄電池を設置した事例はありましたし、一部地域で蓄電池がオプションとして提供されていたこともありました。我が家にも蓄電池がありますが、それはNEC製の蓄電池を後付けしています。

しかし、そういったものと上記の蓄電池は異なっており、一条工務店のロゴが刻印されていることから一条工務店が正式なオプション等として蓄電池の販売を企図しているものと思われます

容量的にはサイズ感からして、7kWh~8kWh程度でしょうか??金額が気になります!

蓄電池は採算性の観点から導入が難しい装置ですが、私自身は自分自身で設置していることからも蓄電池は今後重要な装置になると同時に、また、将来的な災害対策としても極めて重要な装置になると思います。一条工務店が蓄電池をどのようにして販売をしていくのかが非常に楽しみです!

おわりに:何がスゴイって、これを何年も前から開発していたこと

水害が深刻な社会問題になることなど誰にも予見できなかった

今回の一条工務店耐水害住宅は、非常に小さな工夫を積み重ねて実現していることが非常に良く分かりました。一つ一つは技術的に決して高度なことをしているわけではありません。しかし、住宅そのものを「防水」にするというのは、一朝一夕でできることではありません。

今回、多くのメディアで一条工務店耐水害住宅が紹介されたのは、平成26年の広島市豪雨災害、昨年の九州北部豪雨、そして今回の台風15号による千葉県の被災といった地球温暖化に関連する異常気象の連続によって、従来数百年に一度とされていた水害が毎年のように発生している状況を踏まえてのことと思います。さらには、今回の台風19号による広範な河川の氾濫による水害の多発は私たちに水害の怖さを十分に思い知らせました。

そのような中で、この耐水害住宅が販売されればおそらく十分な注目を集めることになろうかと思います。何よりも他のハウスメーカーでは今のところ、同様の耐水害住宅のような住宅は全く発表されていないことから、一条工務店の災害に対する姿勢をアピールするものになることは間違いありません。ただ、あまり売れるものではないと思いますが、だからこそこの耐水害住宅を作ったことは一条工務店の自然災害に対する姿勢を示すものとして非常に意義のあるものと思えます。

耐水害住宅のようなものを今の時期に販売すれば、「災害にかこつけたアピール」という批判もあり得るだろうと思います。しかし、それは全く見当違いのように思うのです。

なぜなら、耐水害住宅のようなものは、かなり長期の開発を経なければ実現することができるものではないためです。

当たり前ではありますが、10月2日の実験の段階で10月12日に飛来し、国内に大規模な水害をもたらした台風19号の水害を一条工務店が予見できていたはずはありません。もっと言えば、2018年の九州北部豪雨よりももっとずっと前から、水害に耐えられる家を作る、という意思決定されていなければこのタイミングで実験を行うに至ることもできないはずです

このことは、ある意味先見の明ではありますが、それは偶然の結果に過ぎず、実際にこれだけの水害が連続することなど想定されるよりもずっと以前に、強い意思を持って(すなわちお金をかけて)「災害に強い家を作りたい、耐震だけではなく水害にも耐えられる家を建てるのだ」というこだわりを見せたと言う点は賞賛されるべきものと思うのです。

もしも、ここ数年の水害の頻発がなければ、「一条工務店がまた変なことをやっている」で終わってしまった可能性も十分にあったと思うのです。

このことは、ZEH補助金によって他の住宅メーカーが住宅の断熱性能に力を入れるずっと以前から高断熱高気密住宅を提供してきたこととも通じる部分があるように思います。

住宅の「防水」は極めて泥臭い開発だったはず

一条工務店は今回の耐水害住宅の公開実験に踏み切った背景について、メディアに対しては「コンピューターを使ったシミュレーションで、設計上の安全性を確保していたが、「超防災住宅」実現のため、実際の住宅を用いた実験にこだわった。」と格好の良いことを言っています。しかし、シミュレーションで防水性能をシミュレーションするなどできるわけがないのです!私も全く別分野とは言え研究者をやっていますが、空気力学のシミュレーションや水流のシミュレーションであれば確かにスーパーコンピュータを使って実現することは可能です。でも、どこから水漏れがあるかなどということは、世界最高性能のスーパーコンピュータをいくらぶん回しても、計算によって求めることは絶対にできないのです。

住宅のような複雑な構造物の防水などということを実現するのは実験を繰り返す以外に方法がないのです。

今回の耐水害住宅を作る過程では恐らく、耐水害住宅という発想があって、小さな模型などで防水実験をして、家が浮いてしまったり、防水したはずの壁の接合部から水漏れがあったり、壁の浸水が止められと思ったら別の場所からちょろちょろと水が漏れてきて、ということを繰り返したはずなのです。

そうした極めて泥臭い努力なしで住宅の防水、さらには耐水害を謳う住宅を建築することは絶対にできません。そうした、泥臭く、本当に売れるのかも全く未知の住宅を地道に作り出す姿勢こそが一条工務店が今、戸建て注文住宅という限られた分野だけではありますが、一気にトップまで上り詰めた一因なのだろうと思うのです。

1m以上の水害が起こったら、家を浸水させるという苦渋を伴う決断

今回のメディアの報道では全く触れられていませんでしたが、おそらく1mを超える水害も当然想定されているはずです。水深が1m以上の水害が発生した場合何をすべきかは明らかです。それは苦渋の選択として「浸水を緩やかに発生させる機構」が作り込まれているはずなのですすなわち「耐水外住宅」を水に沈める機構が不可欠なのです

そうでなければ、水圧によって一気に住宅が押しつぶされたり、強い浮力によって住宅が基礎から外れてしまい住宅そのものが転倒すると言った水害以上の被害、万が一住宅内に人が取り残されていた場合はその直接的な生死にも関わるような大きな被害を発生させてしまうことになります

1m以上の水害が発生することは極めて希ではありますが、今回の台風19号の水害からも明らかなように、ゼロではありません。そして、自然災害の全てに対応可能でかつ経済合理性のある提供価格を実現することは現在の技術では実現することができません。そのため、「最後は家を浸水させる機構」が存在しているはずですし、万が一それがなければそれは極めて危険な商品となってしまいます

今回の耐水住宅は、一条工務店耐水外住宅実験の責任者である萩原浩氏がメディアに対して「今回の耐水害仕様住宅は多大なコストをかけたり、ハイテク技術を駆使したものではない。少しの工夫を積み上げて実現したものだ。」と述べているように、一つ一つは技術的に高度でなく(それ故に低コスト)、しかし、そうした細かな仕組みを有機的に結合させるという非常に地道な努力の結果として実現できたのが一条工務店耐水害住宅だと思うのです。

私自身は既に引き渡し済の一顧客に過ぎず、また、住宅の建築地も水害に遭う危険性のない地域に住んでいるため、今回の耐水害住宅が実現しても何ら恩恵があるわけではありません。また、既に引き渡しを受けているのにいつも色々と文句を書いたりすることもありますが、しかし、こうした努力をしてくれる一条工務店という会社で家を建てることができて良かったなと思うのです。

耐水外住宅の販売は一部地域からかな??

今回、メディア向けの発表では一条工務店は耐水害住宅を来春を目処に50万円程度のオプション費用で実現するということを述べていますが、現実的に考えた時にこれは少し難しいのではないかな?と思っています。仮に本当に来春までに商品化できたとしても、販売地域はかなり限定されるのではないかと思います。

その理由は「施工精度」の問題です。

今回の一条工務店耐水害住宅はおそらく技術的には一定水準の域に達しており、今回の公開実験を通じて技術的に耐水外住宅、すなわち水深1mまで耐えられる防水仕様の住宅を実現することは証明できたと思います。

しかし、これを1棟だけ実験用に建てると言うのと、1000棟建築するのとは全く違った次元の創意工夫が必要になります。

仮に今後5千棟の耐水外住宅を販売できた場合、確率的には単純計算で10年程度で20棟から30棟が水害に遭うことになります。耐水害住宅を建築する人は当然、水害が発生しやすい地域に住む人が選択することになるでしょうからそうしたことを踏まえれば、発生頻度5倍と仮定して100棟前後は水害に遭う計算になります。(国内戸建棟数2661万棟、床上浸水が発した住宅[過去12年]約8万棟より試算)

こうしたことを考えた場合、販売した耐水害住宅のうちランダムに100軒を選択して、その全てで「浸水しない」ということは極めて困難なことと推察されます。

耐震設計は建築分野で古くからの研究実績があり、コンピュータによるシミュレーションも可能です。そして、耐震は柱の太さや釘の配置や本数をある程度しっかりしていれば実現できます(決して簡単という意味ではなく)。それに対して,住宅の防水というのは一条工務店以外に実施している住宅メーカーも、研究者も私は知りませんし、調べてもほとんどそのような事例は見つけることができません。すなわち、施工自体が「未知の領域」と言えるのです。

今回の実験で用いた耐水害住宅でも、弾性系接着剤で防水透湿シートを貼り付けているという記載があるように、かなり「施工者に依存した仕様」となっていることは間違いありません。一条工務店が得意とするフィリピン工場での大量生産とは相反する仕様となっているのです。また、決して良いことではありませんが、住宅の耐震性の場合、釘を1本、2本打ち忘れても耐震性能に大きな影響が出ることはほとんどありません。一方で、防水は1カ所でも接着のし忘れ、防水パッキンの設置忘れがあれば、水害発生維持にはそこから一気に水が浸入してきます。そして、その水の浸入してくる力によって亀裂はどんどんと広がってくることになるでしょう。

防水仕様の住宅を建てるということは、木組みで住宅と同じ大きさの船を作るのと同じことをしなければならないのです。そして、船であれば、一度川に浮かべてみて、万が一水漏れがあればそこをすぐに塞げば問題を解決できますが、耐水害住宅では、万が一水漏れが発見されたその時は、既に住宅の外で水害が発生している状態であり、居住者は避難をしているので誰も浸水を塞ぐことができない手遅れの状態なのです。

耐水害住宅仕様は、施工者への依存度が高く、また従来とは全く異なる次元の施工精度が求められるものとなっています。

そのため、一気に全国展開を行えるようなものではなく、一部地域でしっかりとした管理の下施工を繰り返し、その上で施工をよりしやすく、施工者の知識や技能に依存しない施工方法への改変が不可欠となります。

個人的には「住宅への浸水を可能な限り防ぐことができる耐水害住宅」として販売して、万が一、浸水が発生した場合は保険によって屋内の家財を全額保証し、不足する場合には一条工務店がそれを補填し、さらに1m未満で浸水してしまったような場合には、追加で一条工務店が100万円~200万円といった見舞金を支払う体制を取って販売するぐらいの方が現実的なのではないかな?と思います。1m以下であっても「絶対に浸水しない家」かのように販売してしまうと後になって問題となってしまうようにも思います。

まだ実験段階でもあり、細かな問題はあってもそれは批判の対象になるようなものでは全くないと思っています。何よりも、これまで全く選択肢のなかった「水害」という今後深刻化が明らかな問題に対して、一つの解決策を提案したことは本当に大きな一歩と思います^^今回の一条工務店の耐水害住宅は褒め殺しかと思うほどに、本当に本当にスゴイことだな~と感心しきりです。

あと、やっぱり蓄電池が気になる。。。我が家の蓄電池はあと3年でリース期間が終了するんですよね。。。。