一条工務店が積水ハウスを抜いて住宅販売棟数1位に?大丈夫??

こんばんは。さすけです\(^o^)/

一条工務店の家が売れに売れています。2016年度の戸建て注文住宅販売戸数が、ハウスメーカーで長年単独首位を走り続けてきた積水ハウスと肩を並べるに至っており、このままいけば2017年度は戸建て注文住宅では積水ハウスを含む全ハウスメーカーの中で一条工務店の販売棟数が単独1位となることはほぼ確実という状況になりました

このことを知ったとき、一つの疑問が沸きました。

一般消費者に取ってほぼ無名とも言える一条工務店の家がいったい何故・そして何時から積水ハウスと肩を並べるほどに売れるようになったのでしょうか?そして、今後も一条工務店の家が売れまくって、積水ハウスやその他の旧来の大手ハウスメーカーは衰退して行ってしまうのでしょうか?

そうした疑問を持って色々と調べていくと、今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの一条工務店が売れていることそれ自体は一条工務店にとって良いことと思う一方で、むしろ、積水ハウスなどの旧来からの大手ハウスメーカーによる強かな取り組みと一条工務店の危うさが見えてきました

今回の記事はこれから家を建てる方には全く役立たない情報です。家を建てる方よりもハウスメーカーに就職を考えている方などは知っておいても良いのかな?と思っています^^

目次

一条工務店の家ってそんなに売れているの?

一条工務店の戸建て販売戸数は業界2位というかほぼ同率1位

家を建てることを検討中に一条工務店の展示場に行けば、営業さん達は一条工務店は「実は業界第2位のハウスメーカーなんだ」と言うことをアピールされるかと思います。

実際、2017年6月1日時点で下のグラフように一条工務店の販売戸数は業界2位だとアピールされています。

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上の図では、1位が積水ハウスであろうことはわかりますが、3位以降は良く分かりません。そこで、住宅産業新聞のデータを元に企業名を入れてグラフを作りなおしてみました。

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住宅産業新聞のデータには一条工務店とタマホームが入っていなかったので、一条工務店とタマホームのデータを追加しました。

タマホームのデータは有価証券報告書ベース、一条工務店のデータは公開されているグラフをドットベースで数値化しました。

3位のヘーベルハウスを展開する旭化成ホームズや4位のセキスイハイム、5位のダイワハウスはいずれも9000棟から1万棟であることを考えると、戸建住宅に関しては積水ハウスと一条工務店の2社が2強となっており、3位以降を大きく引き離している状態にあります。

そのため、2016年度時点で数値で比較すれば一条工務店は積水ハウスに次ぐ2位ですが、積水ハウスが12570棟、一条工務店が12495棟で、その差は僅か75棟となっていることから、新築戸建て注文住宅の建築棟数に関して積水ハウスと一条工務店はほぼ同順で1位と考えて良さそうです

急成長を遂げた一条工務店~急成長は何時からはじまったのか?~

一条工務店のホームページには毎年自社の建築棟数が掲載されていますが、2009年当時の一条工務店のホームページには2008年度の販売棟数グラフが掲載されていました。当時の一条工務店のホームページを見ると、一条工務店はハウスメーカーの中で7位に位置していたことがわかります。

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(2008年度の戸建て住宅販売棟数における一条工務店の順位:2009年当時の一条工務店ホームページより)

2008年度時点では、一条工務店は大手ハウスメーカーで販売棟数が最も少ないパナホームをギリギリで追い抜いたところで、一条工務店がやっと大手呼ばれるハウスメーカーの最後尾ににたどり着いた、という状態であったことがわかります。

下のグラフは2012年当時の一条工務店のホームページに掲載されていた2010年度の一条工務店販売棟数順位です。

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(2010年度の戸建て住宅販売棟数における一条工務店の順位:2012年当時の一条工務店ホームページより)

リーマンショック後の2010年度においても一条工務店の順位は6位に上がってはいるものの、依然として大手ハウスメーカーのほぼ最後尾の一群にありました。実際には上記のグラフにはタマホームは入っておらず、当時のタマホームの販売棟数は9千棟近くあったことから、タマホームを含めると7位でした。

この状況が一変したのが2011年度~2013年度になります。下記は2013年当時に一条工務店のホームページに掲載されていた2012年度の一条工務店の住宅販売棟数順位になります。

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(2012年度の戸建て住宅販売棟数における一条工務店の順位:2013年当時の一条工務店ホームページより。上記一条工務店のに13ヶ月の集計であるため実際の棟数は1万棟程度)

2010年度まで、大手ハウスメーカー最下位に位置していた一条工務店が1位の積水ハウス以外のハウスメーカーをごぼう抜きにして、一気に2位に浮上しました!?と思いきや上記のグラフは極めてミスリーディングなグラフで他のハウスメーカーが1年間=12ヶ月間の集計でああるのに対して一条工務店のみ13ヶ月間の集計を用いているので、1ヶ月分だけ販売棟数が多く計上されています。実際には年間の販売投数は1万棟を僅かに下回るものであったと推察します。ちなみに、一条工務店が13ヶ月の集計を使っているのは2位に見せることを目的にしているわけではなく、ちょうど同時期に一条工務店が決算期を2月決算から3月決算に変更したという背景はあります。ただ、それを赤マークしてアピールするのはどうよ?とは思います。

一条工務店の集計方法にトリッキーさはあるものの、それでも一条工務店は2010年まで7000棟前後を推移していたのがたった2年で販売棟数を一気に年間3千棟も増やしたことは間違い無く、2年ほどで1.5倍近い販売棟数の増加は急成長と言えます。

名実共に2位に位置づけたのは2014年度で2016年時点の一条工務店のホームページでは一条工務店の販売棟数が2位であるとアピールされています。

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(2014年度の戸建て住宅販売棟数における一条工務店の順位:2016年当時の一条工務店ホームページより)

2014年度には一条工務店が3位以降を引き離し1位の積水ハウスに続く2位に位置していました。

これらのことから、一条工務店の住宅販売棟数が大きく伸びたのは2011年~2013年あたりにありそうだということがわかりました。

販売棟数推移で見る一条工務店の急成長

ここまでの一条工務店の過去のホームページから引用してきたグラフは一条工務店のホームページに掲載されていたものであるため、一条工務店以外のハウスメーカーの名称が伏せられています。そこで、以下では具体的なハウスメーカー名を記載して話を進めることにしたいと思います。

下のグラフは2010年度の各社の住宅販売戸数を100%としたとき2016年度までの7年間に販売戸数がどのように変化してきたかを確認した結果を示しています。

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このグラフを見ると2010年時点を基準とした場合、一条工務店は160%以上も住宅販売棟数を伸ばしていることがわかります。

特に一条工務店の成長が顕著なのは2011年度から2013年度にかけてで年間販売棟数を毎年20%近くも増やしています。

ヤマダエスバイエルも1.4倍近く販売戸数を伸ばしていますが、もともとの販売戸数が1500戸と少ないため、最近成長してはいるけれど販売戸数は2000戸に留まっています。ヘーベルハウスは2010年度の8千棟台から1万棟まで販売戸数を増やしており、大手ハウスメーカーの中では成長していると言えますが、一条工務店の伸び率と比較するとやや弱い伸び率となっています。

赤で示した一条工務店の成長率が突出していることからも同期間における一条工務店の成長が著しかったことが分かるかと思います。

下のグラフは2016年度を単年で切り取った、2010年度比の販売棟数の比較グラフです。

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2010年度比伸び率で示したとき、一条工務店は165%と他社の追随を許さない伸び率を示していることが分かります。一条工務店は今、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでハウスメーカーの中で最上位を狙わんとしている、と言えそうです。

一方で、販売戸数を大きく下げているのが、ミサワホーム、積水ハウス、三井ホームの3社です。これについては後で触れます。

なぜ一条工務店の家は売れるようになったのか?

東日本大震災、そして再生可能エネルギーブーム

一条工務店が急激な販売戸数の成長を見せた2011年~2013年までにあったことは何か?と考えた時、2つの大きな社会変化があったことが挙げられます。

1つは「東日本大震災」です。そして、2つ目は東日本大震災の結果生じたことですが、福島原発事故とその後の太陽光発電の固定価格買取制度の大幅な拡充です。

再生可能エネルギーの固定価格買取制度自体は2009年にスタートしていましたが、東日本大震災後の電力不足、原子力発電への社会的不信の高まりによって再生可能エネルギー固定価格買取制度が大幅に拡充されました。

これら2つは一条工務店が急速に売上を伸ばしたことと無関係ではないと考えています。

一条工務店がi-smartの販売を開始

ただ、東日本大震災に端を発する社会変化だけで一条工務店の家が売れるようになったわけではなく、一条工務店自信の取り組みが背景にあったことも間違いありません。

一条工務店は、東日本大震災の直後の2011年4月にi-smartというツーバイ工法の高断熱高気密住宅の販売を開始することを発表しました。契約は発表と同時にスタートしましたが、当時は印刷された資料もなくA4の紙を簡易製本した10ページにも満たない資料が提供されていただけでした。印刷されたカタログが顧客に渡されたのは発表から遅れること3ヶ月の2011年7月に入ってからでした。

一条工務店は当初7月に発表予定だったi-smartの発表を震災を受けて、住宅需要が急増することを睨み3ヶ月前倒しして2011年4月に発表しました。

最初のi-smartが顧客の土地で建てられるようになったのは2011年12月になってからでした。

なんでこんなに詳しいかと言うと、私自身が一条工務店の展示場を訪れたのが2011年5月で、契約をしたのが2011年の6月末だったからです。そして、私が現在書いているこのブログ(当時はアメブロでしたが)をはじめたのも2011年6月のことでした。私が一番最初に投稿した記事はいまでも記念に残してありますが、当初の考えと大きく異なっている点は当時は「怒られない限りは企業名や商品名を具体的に書く」としていましたが、これは今では全く考えが違っていて「怒られても具体的に書く」に変化しました。

話が逸れたので戻します。

このi-smartの販売開始が一条工務店成長の大きな原動力になったことは間違いありません。

一条工務店i-smartが売れたのは単に高断熱高気密+全館床暖房だったからではなく時代背景の変化

一条工務店の成長が「高断熱高気密+全館床暖房」のインパクトだけで語られているのを見かけることがありますが、これはややミスリーディングと思っています。

卵が先か鶏が先かという話ではありますが、もしも東日本大震災がなければ、一条工務店は現在ほどの急成長を遂げていなかったように思います。

これは個人的な推測ですが、一条工務店のi-smartがヒットした背景には単にi-smarが魅力的だっただけではなく、社会が「家」に求めるものが東日本大震災を機に大きく変化し、その結果としてi-smartがヒットしたのだろうと思っています。

特に中所得者層においてその傾向が顕著で、それまでは「家はきちんと住むことができれば安ければ安い方が良い」というニーズが強かったものが、リーマンショックを機に外で過ごす機会が減り「家で過ごすことの快適さ」を求めるといった潜在的ニーズが形成されていたと推察します。そして、東日本大震災をきっかけとして、そのニーズが住宅市場に顕在化すると同時に、福島原発の事故に伴う電力不足があわさり「省エネへの意識」も高まりました。

この価値観の変化により、従来売れていたローコスト住宅のタマホームが2011年を境に売上を落とし、それに変わる形でi-smartが大きく売上を伸ばしましたのだろうと思います。

事実、i-smartよりも断熱性能が高かったi-cubeは2008年時点から販売開始されていましたが、2008年~2011年までは一条工務店の販売棟数に大きな変化は見られず、2011年を機に急激な成長を遂げています。

もしも、単にそれまでハウスメーカーが見落としていた全館暖房や高断熱高気密への潜在需要があったのであればi-cubeが大ヒットしていたはずですが、実際にはヒットはしていましたがi-smartのような大ヒットとはなっていませんでした。

そのため、単に高断熱高気密+全館床暖房という住宅性能だけで一条工務店の急成長を語るのは間違えているように思っています。

i-smartが消費者のニーズにマッチしたと言うだけではなく、社会的な背景も含めて古くさい言い方ですが一条工務店の急成長は「時代背景にマッチした」というのが正しい認識のように思います。もちろん、その変化に迅速に対応して素早い商品展開が行えたことは単なる偶然だけでは語れず高く評価されることです。

結果として、今年7月に書かれた下記のコラムにあるように一条工務店が積水ハウスに迫る急成長を遂げました。

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一条工務店が夢発電を開始

そして、一条工務店の急成長にはもう一つ大きなドライビングフォースがありました。

それが「夢発電」です。

値段が高いとされていたソーラーパネルの設置費用を一条工務店が建て替えることで、「初期費用ゼロ円」でソーラーパネルの設置を可能とした金融商品です。

一見すると住宅ローンに加えて夢発電と言う名前のローンを加えただけのあまり意味が無さそうな商品ですが、これが一条工務店を急成長に導いたもう一つの立役者と思っています。

一条工務店はソーラーパネルを自社生産していました。そして、家を建てる方にとっては住宅ローン額が増えすぎると不安になる心理があります。そのため、単に安いソーラーパネルを販売しただけでは不十分です。住宅ローンに組み入れる形でソーラーパネルを販売しようとすると、住宅ローンの枠の問題や心理的不安感の増大などから、ほどほどのソーラーパネル搭載量しか実現しなかったと思います。

しかし、住宅ローンと夢発電(と言う名前の太陽光パネルのローン)を切り分けることで、太陽光設置については住宅ローンと異なり固定価格買取制度によって国が保証した制度下で「太陽光」という極めて安定したエネルギーから売電収益を得て返済計画が行えます。かつ、当時の売電価格は極めて高かった(42円/kWh)ことから、住宅ローンの枠からも開放された顧客は「せっかくなら大容量のパネルを搭載しよう」という顧客心理を突き、一時は8割を超えるソーラーパネル搭載率、しかも4kW程度の搭載量が一般的だった当時に平均9.2kWというソーラーパネル搭載量を実現しました。

夢発電とi-smartの片流れの形状によって他のハウスメーカーではなかなか実現できなかった大容量のソーラーパネルを設置し、売電収益を担保とした初期費用ゼロのソーラーパネル設置がこれから家を建てようとする人に対して最後の一押しになっていたのだろうと思います。事実、私がそうでした^^

また、大容量のソーラーパネルを搭載することができるならば、ちょっと予算オーバーだけど家を広くしてしまおうか、として1棟あたりの収益も上がったと思います。

このようにi-smart+夢発電という2つの原動力によって一条工務店は急成長を果たしてきました。

最後に残る疑問・・・一条工務店はなぜ積水ハウスに追いついたの?

i-smart+夢発電による一条工務店の急成長は疑う余地がありませんが、一条工務店がハウスメーカーの中で販売棟数ベースで1位になるということにはやや違和感を感じます。

なぜなら、2016年度の一条工務店の販売棟数である1万2千棟という棟数が、1位になるには少なすぎる棟数だからです。

長期にわたってハウスメーカーの住宅販売棟数1位に君臨し続けてきたのは積水ハウスです。積水ハウスの住宅販売棟数は多い時期には2万棟を超えており、私が家を建てた当時であっても1万7千棟あまりの住宅を販売していました。

そのため、一条工務店が1万2千棟を達成したとしてもそれに+5000棟もの差を付けて積水ハウスがいたはずなのです。にも関わらず、2016年度時点で一条工務店がは積水ハウスと肩を並べ、さらには2017年度には販売棟数1位になろうとしています。ということは、すなわち積水ハウスが今までよりも施工棟数を大きく減少させてきた、と言うことになります

一条工務店の1位は漁夫の利?

3年で5000棟以上も販売戸数を減らした積水ハウス

一条工務店の住宅販売棟数が単独1位にならんとする勢いで伸びていることを示しました。なぜそのようなことになったのかもう少し詳しく見ていくことにします。

下のグラフは、2010年度から2016年度までの主要大手ハウスメーカーの販売棟数の推移です。

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このグラフを見ると赤線で示した一条工務店が、2010年度から急激な販売棟数の増加を見せて、2012年度には大手ハウスメーカーの多くを一気に抜き去っていることがわかります。

しかし、大手ハウスメーカーの中でも青線で示した最大手の積水ハウスだけは他社と比べて圧倒的に販売棟数が多く、全く追い抜けずにいました。2013年度の積水ハウスの販売棟数は17500棟に対して、一条工務店は11500棟で一条工務店と積水ハウスの差は5千棟以上もありました。

ところが、2013年度以降、積水ハウスの住宅販売棟数が大きく下落しはじめ、そして2016年度までのたった3年で5千棟も販売棟数を減らしたのです。

そして2016年度の積水ハウスの販売棟数は12000棟台になり、一条工務店は急激な成長の結果12000棟台を達成し、両社の販売棟数がほぼ同数になるに至りました。

積水ハウス以外のハウスメーカーを抜き去った部分については一条工務店が販売棟数を伸ばした結果であると言えそうですが、積水ハウスと同数を達成するに至ったのは、一条工務店の成長の結果と言うよりも積水ハウスの販売棟数の落ち込みの影響が大きいと言えます。

このまま行けば、2017年度は積水ハウスは1000棟ほど販売棟数を減少させ年間販売棟数を1万1000棟前後とし、一方で一条工務店は2016年度と同水準の販売棟数を維持するだけでも、積水ハウスに1000棟の差を付けて単独1位になるだろうと思います。

言い方は適切ではないかもしれませんが、一条工務店が単独1位になろうとしているのは一条工務店の努力だけではなく、積水ハウスの販売棟数急減による漁夫の利であるとも言えます

40年以上に渡り1位に君臨し続けてきた積水ハウス~歴史的転換点になるのか?~

積水ハウスは1963年に積水化学工業から独立して以降、1966年に日本で初めての総合住宅展示場であるABCモダン住宅展に出展するなどの取り組みと共にその後、プレハブ住宅を急速に展開し、1975年に施工棟数、売上共に戸建て住宅業界でトップとなりました。それ以降、(私が調べた限り)40年以上に渡って積水ハウスが施工棟数1位の座を奪われたことはありませんでした。まさに1位に君臨し続けてきたと言えます。

記録があった1973年時点の積水ハウスの販売棟数は2万3300棟と2017年時点の施工棟数の2倍近い販売棟数を誇っていました。

当時は高度経済成長期の最終段階にあり、それまでは一般の人々の手に届かないものであった戸建住宅がサラリーマンであっても購入できるようになった時期とも重なり、国内の住宅販売棟数は186万戸(2016年度は約97万戸)と、現在の2倍近い住宅需要があった時期でもありました。一条工務店が時代背景にマッチして急成長を遂げたように、長年1位に君臨し続けてきた積水ハウスもプレハブ住宅に代表される工業化住宅を展開することで、旺盛な住宅需要に対して「モダンな」住宅を適切な価格で実現するといった当時の時代背景にマッチした住宅販売で急成長を遂げてきた企業でした。

しかし、40年以上に渡り単独トップの座にあった積水ハウスが2013年度までは17000棟以上の販売棟数があったのに、その後販売棟数を大きく減らし続け、2016年度時点では12000棟の水準まで販売棟数を減らしてしまいました。そして、このままの傾向が続けば、2017年度においては積水ハウスと一条工務店の戸建住宅販売棟数は逆転し、40年にわたる販売棟数1位の座は積水ハウスから一条工務店に交代することはほぼ確実です

積水ハウスに何が起こっているのでしょうか?

昨今、一条工務店をはじめとして、桧家住宅やヤマダ・エスバイエルホームなども急激な成長をしています。これらハウスメーカーの急成長によって旧来の大手ハウスメーカーのシェアが奪われ、そこに人口減少と相まって、積水ハウスが蹴落とされる形で販売戸数を減らし、一条工務店の家が売れた結果として一条工務店がハウスメーカーの中で1位になっているのでしょうか?そうであれば、積水ハウスやダイワハウスなど従来の販売戸数のトップグループにとって一条工務店は脅威以外の何者でもありません。

しかし、少し詳しく見ていくと、違ったものが見えてきます。むしろ、積水ハウスやダイワハウスが強かに戦略を練っている横で、一条工務店が一人勝ちの体を見せているだけでは?とも思えてくるのです。もちろん、さらにその先を読んで一条工務店が戦略を練って行動しているということもないことはないかもしれませんが、、、

いったい積水ハウスに何が起こっているのでしょうか?

積水ハウスの販売棟数はなぜ急減しているのか?

販売戸数が下がっているのに株価は急上昇の不思議?

なぜ積水ハウスはこれほどまでに販売棟数を減らしてしまったのでしょうか?積水ハウスは上場企業ですから、販売戸数が20%も落ち込めば当然大きな株価の下落が起こるはずです。

そこで、最初に積水ハウスの株価を確認してみました。先ほどのタマホームと同じように積水ハウスの株価も大きく下落しているのでしょうか?

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(積水ハウスの株価推移2007年4月~2016年3月)

積水ハウスの株価では予想とは全く逆のことが起こっていました。

2010年度~2013年度の積水ハウスの販売棟数が16000棟を超えていた時期には株価はおおよそ900円前後で推移していましたが、販売戸数を減らした2014年から2016年度の3年度で株価が一気に2倍に達していたのです。

これと似た傾向を示しているハウスメーカーがもう1社あります。ダイワハウスです。

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(ダイワハウスの株価推移2007年4月~2016年3月)

積水ハウスやダイワハウスは住宅販売戸数が減っているのにもかかわらず株価は上昇しており、戸建て住宅販売数の傾向とは大きな乖離が見られます。

これは極めて不自然な現象です。

積水ハウスとダイワハウスの2人勝ち?経常利益は4倍

積水ハウスとダイワハウスはなぜ販売棟数が減りながら株価は上昇しているのかについて探っていきます。

その理由は簡単にわかりました。

積水ハウスは2010年度の売上高1兆4884億円に対して、2016年度の売上高は2兆269億円へと1.36倍伸ばしており、経常利益は2010年度が563億円に対して、2016年度には1910億円と約4倍にも達しています。

ダイワハウスも同様で、2013年度の売上高が1兆6902億円に対して2016年度売上高は3兆5129億円と2倍以上に延びており、経常利益も2010年度の790億円に対して2016年度には3005億円へと約4倍に達しています。

すなわち、住宅販売棟数は大きく減少しているのに、積水ハウスの企業としての売上高、経常利益は共に大きく伸びており、これらの収益が株価の上昇を牽引していることが分かりました

では、なぜ積水ハウスは売上や経常利益を上昇させているのでしょうか?

戸建てから賃貸事業への軸足の変化

このような急激な売上の上昇の背景には2つの理由が挙げられます。

1つは戸建住宅事業から賃貸住宅事業への事業転換と賃貸住宅戸数の大幅な増大です。

積水ハウスが2011年度に建築した賃貸住宅は2万5千戸でしたが、2016年度には3万4千戸まで増大させています。

ダイワハウスについても賃貸住宅販売戸数は2010年度が2万5千戸であるのに対して、2016年度は4万3千戸と大きく増大しています。

これが各ハウスメーカーの売上に与える影響については、有価証券報告書の事業セグメント毎の売上比率を見ると理解できます。

積水ハウスを例にすると、2011年度の事業セグメント毎の売上比率は下のグラフのようになっていました。2011年当時、積水ハウスの売上に占める戸建住宅の販売の比率は約32%を占めていたことがわかります。一方で賃貸住宅は21%でした。

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しかし、2016年度のセグメント毎の売上比率をグラフにすると下のグラフになります。2016年度の積水ハウスの売上に占める戸建て住宅の売上比率は21%に下がる一方、賃貸住宅の比率が26%に達しています。

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積水ハウスにとって売上ベースで見た場合、2011年度時点では戸建住宅が名実共に積水ハウスの主軸でしたが、2016年度には戸建住宅の売上は不動産事業、賃貸住宅事業に続く3番目の事業となっていることが分かります。

営業利益で比較すると積水ハウスの軸足の変化がより顕著に

上記は売上ベースでの比率になっているため、実際の「利益」とは乖離があります。典型的なのは不動産事業ですが、不動産は土地を売買することで売上が出ますが、実際には土地の仕入れ値があるためそれほどの収益がでません。このような問題を避けて見るためには営業利益を見ると理解ができます。

2011年度時点の積水ハウスのセグメント別営業利益比率は下のグラフのようになりました。マンション事業については赤字であったためゼロとしています。

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営業利益ベースで見ると2011年度時点では、積水ハウスの営業利益の約半分は戸建て住宅事業からもたらされており、名実共に戸建住宅販売は積水ハウスの主軸となる事業でした。

しかし、これが2016年度には大きく変化します。

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積水ハウスの営業利益のうち、賃貸事業がトップの31%を占め、続いて戸建住宅事業は26%の構成比になっています。

積水ハウスにとって依然として戸建住宅は重要な事業であることには違いがありませんが、最も企業の利益に貢献しているのは戸建住宅ではなく賃貸住宅事業に変化したことが分かります。

戸建て住宅は高級住宅(高収益住宅)にシフト

こうしてみてくると、積水ハウスは事業転換をして戸建住宅を捨てたかのように見えてしまいそうです。

しかし、全く違っており、積水ハウスの戸建住宅事業にも大きな変化が起こっています。

このことは積水ハウスの1棟あたりの販売価格を見ると分かります。

2010年度の積水ハウスの住宅販売戸数は1万6千棟と2016年度に比べて4千棟も多くありました。2010年度時点の住宅事業の売上高を住宅戸数で割れば積水ハウスが建てる住宅1棟あたりの価格が求められます。

積水ハウスの住宅1棟あたりの価格は2010年度時点で2919万円/棟でした。これが2016年度になると3039万円/棟と1棟あたりの価格は120万円も上昇しています。さらに1棟あたりの営業利益は328万円から394万円へと66万円上昇していることがわかります

通常、販売戸数が減ると営業利益は規模の経済効果が薄れることで下がりますが、積水ハウスでは1棟あたりの営業利益率が20%も上昇しています。住宅価格は何千万円もすることを考えると「たった66万円」と捉えてしまいそうですが、営業利益率ベースで20%の差は極めて大きなものとなり、企業にとって最も重要な最終利益を示す経常利益にすると、2011年度経常利益率が

実際、2011年度の経常利益率は4.6%であったのに対して、2016年度は9.4%になっています。すなわち、最終的な利益は2倍に増えているのです。

2011年時点では3000万円の家を販売すると積水ハウスは138万円の利益を得ていましたが、2016年度は同じ価格の家を売って282万円の利益を得られるようになっているのです。

そのため、販売棟数が1万7千棟から5千棟も少なくなっているのに、利益は1.44倍に増えるということになります。

2011年当時の利益率だと、2016年度と同じだけの利益を得るためには25000棟以上は売らなければなりませんでした。

このようなことを知ると「もっと安くしてよ」と言いたくなるところですが、積水ハウスの戦略は「そういうことを言う人には売らない」という方針だということになります。

積水ハウスは低価格の住宅を切り捨て、高価格帯の住宅、すなわち高級住宅へと舵を切ったと言えそうです。

従来は低価格帯(といっても中小工務店に比べるとかなり高い)住宅も手がけていたのを、高価格帯の住宅に的を絞って請け負う形に事業態様を変化させのだろうと推察できます。

事実、価格の高いISシリーズをリニューアルしており、最終的坪単価ベースで90万円~100万円程度の鉄骨であるISシリーズと木造のシャーウッドに重点を置いているように見受けられます。

結果として、販売棟数は従来のターゲットであったあった中価格帯の層は価格の上昇に伴って購入ができなくなり、販売棟数は減少することになります。しかし、高価格帯の住宅は利益率も高いため、結果的に1棟あたりの利益率が大きく上昇するという結果になったと推察できます。

これはダイワハウスについても同様の傾向です。

積水ハウスはなぜ棟数を減らしてまで高級住宅にシフトするのか?

なぜ販売戸数を減らしてまで単価を上げようとしているのか?人口減少によるパイの縮小

しかし、そうは言っても結果的に販売棟数が減ってしまっては将来良くない結果を招くのでは?という懸念も残ります。

そもそも、積水ハウスと言えば販売棟数トップというブランディングもあったはずです。それが、販売棟数を無視したとも取れるような高級住宅に舵を切ったのでしょうか?

このことを理解するためには、積水ハウスやダイワハウスといった企業単独での話ではなく、もっと大きな日本という国の形態について理解しておくことが必要です。

日本の人口は当面は減少を続けます。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2016年時点で1億2681万人の人口は、2030年までに1億1760万人まで減少します。特に人口減少が顕著なのが、15歳~64歳までの「働く世代」になります。15歳~64歳までの人口は2016年時点で7728万人ですが、2030年には6875万人まで減少します。一方で、65歳以上の世代は3387万人から3716万人へと増加します。

主として住宅を購入する世代のみが1千万人近く減少することで、住宅の販売数も大きく減少します。

野村総合研究所のレポート「2030年の住宅市場」によれば、新設住宅着工件数は2016年度の97万戸であったのが2030年度までに55万戸まで減少すると予想されています。バブル前の1988年が167万戸、バブル後の1995年であっても163万戸であったことを考えると3分の1まで減少するという予想になっています。

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(出典:野村総合研究所のレポート「2030年の住宅市場」

こうして長期のトレンドを見ると住宅産業自体が全体的には、縮小傾向にあることがわかるかと思います。

そして、上記における2030年55万戸という新設住宅着工戸数には賃貸住宅等も含まれています。そのため、実際にハウスメーカーが建設する戸建住宅はもっと少ないものとなります。

2016年時点で新設住宅着工件数に占める戸建住宅の軒数は29万戸に過ぎません。2030年に新設住宅着工件数が55万戸になるとするならば、戸建住宅は20万軒程度まで減少することを意味します。

2030年の新設住宅着工軒数に占める戸建住宅の軒数は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング「住宅着工とストックの長期展望~2030年度に住宅着工は60万戸台前半まで減少~」に記載があります。下の左上のグラフがそれです。

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(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「住宅着工とストックの長期展望~2030年度に住宅着工は60万戸台前半まで減少~」)

この資料によれば、2030年度の戸建住宅(持ち家)着工件数は20万軒程度になると推測されています。

そして、この戸建て住宅着工件数が最も下がるのが「地方圏」と予測されています。

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(出所:三菱東京UFJリサーチ&コンサルティング資料より作成)

首都圏、中部圏、関西圏の都市圏においては2030年までに新設住宅着工件数は20-30%程度の減少に留まるとの予測に対して、それ以外の地方圏に分類される地域においては、新設住宅着工件数は約半分まで落ち込むと予想されています。

ハウスメーカーは施工棟数競争ではなくパイの拡大と収益率の上昇を目指す

こうした調査レポートを見ていくと、今後ハウスメーカーが国内で取るべき戦略は2つに絞られます。

新設住宅着工軒数が減少し続けることは、人口減少に依存している以上企業の取り組みでどうこうなるものではありません。よって、戸建住宅市場そのものは確実に縮小していきます。

縮小する市場において「施工棟数1番」を競い合うことは、縮小する市場においてチキンレースを繰り広げるに等しく、企業の財務基盤を消耗させるだけのものとなりあまり意味がありません。

このような縮小市場において重要になってくるのはブランディングと高付加価値化によって、販売棟数は減っても収益は維持できる販売戦略を採ることになります。すなわち、「高級住宅市場の占有」をめざすことが重要となってきます

そして、もう一つの戦略は「パイの拡大」です。新設戸建住宅自体は今後景気変動による増減はあっても、過去40年と比べて増えることはあり得ません。そのため、どんなに頑張っても戸建住宅市場というパイはすぐに頭打ちになってしまうことになります。

そこで、「戸建住宅以外」を建設する方向に進むのは自然な流れです

ハウスメーカーが目指す2つの新規市場

住宅産業という括りのなかではすぐに新規開拓可能な市場は2つあります。1つは分譲住宅市場、そしてもう一つは賃貸住宅市場です。

国交省の資料によれば、1997年度から2016年度までの新設住宅着工軒数に占める戸建住宅の比率は概ね3割程度で推移しています。

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(出所:国土交通省住宅経済関連データより作成)

一方で、約45%を賃貸住宅が占め、残りの25%を分譲住宅が占めているという構造になります。

規模の大きさ、収益性の高さ、そして何よりも相乗効果の観点からハウスメーカーが狙うべきは賃貸住宅市場の拡大に力を入れることが必然となります

分譲住宅も規模では同程度の規模ですが、分譲住宅には戸建て分譲とマンションのような集合住宅の分譲が含まれています。概ね半分が戸建て分譲、そしてもう半分がマンションとなっています。

ハウスメーカーであれば戸建住宅を建築するノウハウは当然持っているので参入がしやすいのは戸建て分譲となりまっす。しかし、戸建て分譲住宅市場には年間施工棟数で4万5千棟以上(2016年度有価証券報告書:45499棟)の分譲住宅を販売している飯田産業グループホールディングスという巨人がいます。飯田産業グループの傘下には、一建設、アーネストワンなど分譲住宅大手が名を連ねています。売上高は分譲という特性上土地の売買が付随するため見かけ上大きくなっているとは言え、1兆2千億円を超えています。また分譲住宅市場は注文住宅に比べると廉価な提供価格が求められることから価格競争に陥りやすく投資あたりの収益率は低くなってきます

そのため、ハウスメーカーとしては残る半分のマンション分譲が投資利益率の高い参入余地のある市場と言えますが、マンションに関してはその立地が重要になるため、投資収益率の高いマンションは土地価格の高い地域に建てることになります。

土地価格の高い場所に建てるマンションから高い収益を得るためには、「高層化」が不可欠となります。高層マンションについては、戸建住宅のノウハウだけで建設をすることはできません。そのため高層マンション建築には、高層建築を得意とするゼネコンと共同で建設販売を行うことになってしまいます。

実際、積水ハウスを例にすればマンション事業を手がけており、40階建て高層マンションであるグランメゾン上町台ザ・タワーの場合、積水ハウスブランドでマンション事業を展開してはいますが、実際の施工はゼネコン準大手の鴻池組が行っています。

また、一条工務店でも一条タワーレジデンス浜松をはじめとしたマンション事業を展開していますが、いずれも徳倉建設須山建設といった中小ゼネコンと一条工務店とで共同企業体を組織して施工を行っています。

マンション事業は自社のみで売上や利益を占有することができないために結果的に投資利益率は必ずしも良いとは言えません。積水ハウスの有価証券報告書からも、マンション事業の売上高比率は4%、営業利益率は全体の1%に過ぎません。

このような状況から、マンション市場は中層・低層の高級分譲マンションという小さなパイがハウスメーカーが収益を上げられる事業となり参入しないことはないまでも、将来的な企業の主軸になることはない市場となっています。

そのため、ハウスメーカーが成長をするためには賃貸住宅市場への参入が不可避となっています。また、賃貸市場は特定のハウスメーカーにとって非常に旨味のある市場であるとも言えます。

賃貸住宅市場のメリット~鉄骨住宅建設ノウハウ~

賃貸住宅市場の最大のメリットは参入障壁の高さにあります。賃貸住宅の多くは3階建て以上の建物となっています。そして、それらの多くは鉄骨造の建物となります

戸建住宅を手がけているハウスメーカーの多くは、「木造住宅」を主としています。しかし、旧来の大手ハウスメーカー8社[積水ハウス、三井ホーム、旭化成ホームズ(ヘーベルハウス)、住友林業、セキスイハイム、ダイワハウス、パナホーム、ミサワホーム]はいずれも鉄骨の戸建住宅商品を有しています。一般には木造住宅のイメージが強い住友林業も直近で鉄骨ビルの建設に参入をしています。

一方、一条工務店を筆頭に近年施工棟数を伸ばしてきた、タマホーム、桧家住宅、ヤマダ・エスバイエルホームなどはいずれも木造住宅に特化しており、鉄骨住宅商品を持っていません。

鉄骨と木造住宅では構造計算の方法も、建築ノウハウも全く違ったものとなっています。個人的には鉄骨の戸建住宅は寒いイメージがあり否定的ですが、3階建て以上かつ賃貸住宅のように大規模な住宅構造としては木造よりも鉄骨の方が優れていることは否めないように思っています。

結果的に、大手8社は賃貸住宅市場への参入に必要な鉄骨住宅建築ノウハウを持っている一方で、戸建住宅部門では1位になろうとする一条工務店も含めて鉄骨住宅建築ノウハウを有していないため、賃貸住宅市場には容易に参入できない産業構造となっています

このような参入障壁の高さはこれまでの鉄骨住宅建築ノウハウを有する従来の大手ハウスメーカーにとっては市場を独占でき、過度な価格競争に陥らない市場として極めて優れています。

何より、賃貸住宅を建設する顧客の多くは「お金持ち(土地を所有者)」です。そのため、建築に関して住宅ローンの手配等の雑務に手を煩わされることも少ない一方で1棟あたりの売価は高く、また、賃貸住宅を建設するお客さんはその賃貸住宅の投資収益率が重要であることからあまり細かなことは言ってきません。そのため、少ない営業担当者で手厚い営業が行い安いというメリットもあります。もちろん、住宅ローンはなくても、今度は相続など別の金融知識は必要になってくるわけですが。。。

そして、ハウスメーカーが賃貸住宅産業に参入することにはさらなる大きなメリットがあります。

賃貸住宅市場のもう一つのメリット~将来顧客の囲い込み~

この賃貸住宅事業には、賃貸住宅そのものの売上の他にハウスメーカーとして将来顧客の囲い込みのメリットもあります。

賃貸住宅に住む人の多くは、将来家を購入する可能性の高い潜在顧客であるとも言えます。

「積水ハウスの賃貸住宅」で過ごした人たちが、家を建てようと思ったとき、やはりいままで住んできた積水ハウスの展示場に訪ねたくなるのは必然です。そして、日常的な宣伝活動に加えて「ポイント」による囲い込みも行われています。

積水ハウスであれば、子会社である積和不動産が管理する積水ハウスが建てたMASTポイントを積水ハウスで家を建てる際の値引きに使うことができます。家賃7万円の賃貸住宅に3年間住んだ場合、月々70ポイントが自然に貯まっていき、3年後には3360ポイントになっています。積水ハウスで注文住宅を建てる場合は1ポイントを500円として値引きを受けることができるため、126万円もの値引きを受けることができます。

このポイント制度がうまいと思うのは、家を買う人に「捨てたらモッタイナイ」という訴求ができる点にあると思います。このポイントは積和不動産が管理する賃貸に住んでいると勝手に貯まっていきます。そしていざ家を買おうと思った段階になって「100万円分のポイントがあるのでどうぞお使い下さい」と言われます。

もしも積水ハウス以外のハウスメーカーで家を建てればこの「100万円」は捨ててしまうことになる、という宣伝が可能になっているのです。勝手に貯まっていただけなのに、100万円分の値引きの権利を捨ててしまうのはモッタイナイから、ちょっと高いけど積水ハウスで家を建てようとお持ってもらったら万々歳という仕組みは非常に良くできているように思います。

賃貸市場で遺憾なく発揮されるブランド力

積水ハウスやダイワハウスなどの旧来からの大手ハウスメーカーが賃貸市場に参入下際には大きな強みがあります。

それは「ブランド力」です。

個人的な感覚ではありますが、仮に一条工務店が「高断熱高気密賃貸」を建築して、家賃は積水ハウスやダイワハウスの賃貸住宅と同じだったら、どちらを選ぶでしょうか??

注文住宅のように住宅展示場や工場見学によって「体感する場」を提供できたら、一条工務店の高気密高断熱賃貸は人気を得られる加茂知れません。しかし、賃貸を借りる居住者から得られる収益は注文住宅の顧客に比べると遥かに小さい物です。そもそも、住宅建築という立場から考えた時、真のお客さんは賃貸住宅に住む人ではなく、土地の地主さんです。

賃貸住宅の建築主である地主の方にどちらの住宅が良いか比較してもらっても、高断熱高気密賃貸住宅はおそらく魅力的に感じないでしょう。それよりも「積水ハウスが建てた賃貸住宅」や「大和ハウスが建てた賃貸住宅」のようにテレビコマーシャルを多くしているブランド力の強いハウスメーカーの賃貸住宅の方が借主への訴求力が高く、賃貸の建築主からしてみたら投資回収率が高いと感じてもらえるのではないでしょうか?

「隠れ大手」という形では賃貸市場への参入は困難なものとなります。隠れていないで出てこなければ賃貸市場での成長は難しいと言えます。

エコシステムから排除される新興ハウスメーカー

大手ハウスメーカーの賃貸住宅シフトは将来の人口減少と新設住宅市場の縮小を前提として、収益率の低い中~低価格帯の戸建住宅を捨てて、高価格帯に絞った販売戦略に切り替えた上で、好循環を生み出すためのエコシステムを形成しようとしているように思います。

そして、今戸建て住宅市場で1位になろうとしている一条工務店やローコスト住宅最大手のタマホームなど新規参入組は、大手ハウスメーカーが造りだしたエコシステムの外に追いやられて、企業として見た場合の収益性が悪い市場で熾烈な競争を繰り広げざるを得ない状況が造られつつあるように感じます。

一条工務店の強み

高断熱高気密住宅施工技術

では、せっかく販売棟数で業界トップにならんとする一条工務店はこのまま衰退してしまうのか?と考えると、その可能性は否定できないけれどまだ一条工務店ならではの強みは持っています。そのため、一条工務店が目標とするように、縮小市場とは言え注文住宅市場を積水ハウスに変わって独占し、一次の積水ハウスのように2万棟に達する棟数を実現・維持できればまだ成長の余地はあります。

そして、その成長の中で得た利益を新たな市場開拓に投資することで、将来的な持続可能な成長の余地もあります。

一条工務店が他社よりも明らかに優れていると思われる点は、高気密高断熱住宅に関するノウハウです。現在、年間1000棟以上戸建住宅を販売しているハウスメーカーの中で一条工務店以上に高断熱高気密住宅を販売しているハウスメーカーはありません。

断熱性能を比較した場合、ZEH補助金の影響もあってその差は縮まっているとは言え、依然として断熱性能には2倍以上の開きがあり、一条工務店の「断熱性能」は他社と比較して明らかな強みとなっています。

住宅の断熱性能の向上は、どこのハウスメーカーでもできる、または、地場の工務店でもできると言われることがあります。確かに、高断熱高気密住宅を得意とする中小工務店は全国に複数存在しています。工務店によっては一条工務店以上の断熱性能を売りにしている工務店もあります。

しかし、「適度な価格」でそれが実現できるか?と言われると一条工務店にはなかなかかなわないのが現状です。また、高断熱高気密住宅は単に断熱材を山盛り入れておけばそれで実現できるような単純なものではなく、断熱欠損による結露の問題等々、極めて細かな技術の蓄積が必要であり、これを低価格かつ大規模に実現することは一朝一夕で行える物ではありません。

そして、この高断熱高気密によって実現される少ない室温変化は居住者にとって極めて快適な生活を実現します。

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全館床暖房も「お金さえ払えば」どこのハウスメーカーでもできないことはありません。ただ、まず間違い無く断られるか、意味が無いというような説明を受けて断られることが大抵と思います。

しかし、私自身の実体験もそうですし、また、科学的な見地からの検証でもエアコン暖房に比べて床暖房の住宅は明らかに快適性が高いと言えます。

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廊下も含めて床暖房を施設するというのは、全てが必要なのか?という点については疑問もありますが、それでもこの部分は床暖房無し、この部分は床暖房あり、として細かく区切るよりも施工の容易性確保(施工コスト)の観点からは全館床暖房の方がメリットがあるのは明らかなので、居住者にとっても一条工務店にとってもメリットのある施工と言えます。

そして、全館床暖房を売りにすると、床暖房を施工しないことは返ってコスト増になるため、一条工務店以外のハウスメーカーのように多数の住宅タイプのラインナップをそろえているハウスメーカーではコストの観点から実現が困難であり、他メーカーの参入を妨げているように思います。

フィリピン工場(HRD)の供給力

一条工務店がなぜ比較的低価格で効率よく高断熱高気密住宅や全館床暖房、全館空調システム(ロスガード・さらぽか)を供給できるのか?と考えた時、忘れることができないのが一条工務店フィリピン工場(H.R.D. Singapore)の存在です。

一条工務店は2011年から2013年までの3年間で年間施工棟数を毎年2000棟近く増大させてきました。

通常の企業ではこれだけのニーズの急増があったとき、生産体制の構築に時間を要し結果的にニーズはあるのに施工が間に合わない、ということが起こります。

しかし、一条工務店は国内の施工体制整備に時間を要した結果半年程度の待ちが出るケースはありましたが、住宅の供給量はニーズの増大を捌ききっていました。

このニーズの急激な増大に応えることができた最大の要因は1997年に操業を開始した一条工務店のフィリピン工場にあったことは間違いありません。

下の記事で書いていますが、一条工務店のフィリピン工場は私達が想像する「工場」というよりも一つの小さな町といった規模です。

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フィリピンカビテ経済特区にある一条工務店のフィリピン工場は東京ディズニーランドとディズニーシーを併せた程度の規模を有しています。2017年2月には大規模な火災があったものの僅か半年で通常操業を実現しました。

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急激な需要の増大に応えることができるフィリピン工場があるが故に低価格に均一な商品を提供できているのだろうと思います。

また、単に大きな工場があってもそこで働く「人」がいなければ工場を操業できませんがフィリピンという国は驚くべきことに国としての平均年齢が23歳と若く、就労年齢にある若い人材が極めて豊富でありながら、それ故に失業率が高く働きたいけれど働けない人が多いという国です。ちなみに日本の国民全体の平均年齢はフィリピンのちょうど2倍の46歳になります。。。

大きな工場、そして豊富な人材を背景として急激なニーズの変化にも柔軟に応えることができたと言う点は、一条工務店の他社にない強みと思います。

非上場故の意思決定の早さと強く優れたリーダーの存在

これまで一条工務店が売上を伸ばしてくるにあたって、長期的には「標準仕様の充実」、タイル張りや腰板、出窓を追加費用なしで施工するといったセゾンシリーズの展開があり、その上でi-cubeやi-smartの高断熱高気密+全館床暖房シリーズの販売という2つが加わり、現在の売上を実現しています。また、これに拍車をかける形で、夢発電による他社が数kWのソーラーパネルを販売している中で10kW近いソーラーパネルを初期費用なしで実現すると言った取り組みが成長の原動力となったことは間違いありません。

「フィリピンに工場を造ろう」という意思決定、「全部標準仕様にしてしまえ」という意思決定、「これからは高断熱高気密だ」「床暖房は全館施工で」という意思決定、「ソーラーパネルが利益がでるなら初期費用は一条工務店が面倒見よう」「ええい!いっそのことソーラーパネルを生産する工場をまるごと買ってしまえ」という意思決定、これらの意思決定は国内上場企業ではまず行うことができない物ばかりです。

一言で言えば、それぞれの意思決定をしている時点では将来の収益が保証されておらず、株主がいた場合まず間違い無く株主の同意を得ることができず、実現できないものばかりとなっています。

例えば、一条工務店のソーラーパネルは日本産業という一条工務店の関連会社が製造していますが、これは2009年にアルバックから50億円で工場ごと買うのに等しいターンキーシステムという方式で一条工務店が自らソーラーパネルを製造しています。

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2009年当時と言えば、ソーラーパネルと言えばシャープ、パナソニックなど家電メーカーの独壇場の時期です。また、固定価格買取制度は2009年にはじまったとは言え、震災後の注目度とはほど遠いものでした。

このような時期に電気設備の製造ノウハウを持たない一条工務店が50億円以上もかけてソーラーパネルの製造に乗り出すなどと言うのはよく言えば極めて挑戦的、普通の見方をすると「むちゃくちゃ」な投資です。

さらに、これに輪をかけるように「初期費用ゼロ円」でソーラーパネルを設置可能な夢発電システムをはじめます。夢発電システムは、一条工務店が自己の余剰資金を顧客に貸し付けるもので、上場企業であれば許されない取り組みです。上場企業であれば、顧客に貸し付ける資金があるならば株主への配当を増やせと言われることは火を見るより明らかです。

さらに遡れば1995年~1997年のバブル崩壊で不良債権処理まっただ中、山一証券が倒産するような時代背景の下で、将来の需要増を期待して当時のハウスメーカーの状況で、将来の需要増大に応えるために日本がODA援助でフィリピンに作った経済特区に写そうというのも、やっぱりむちゃくちゃな取り組みです。

これら全ての意思決定は、非上場故にできたことであり、また、投資家よりもさらに遥か先を読むことができる創業オーナーという極めて強く先を読むことができるリーダーがいたからこそ実現できたとしか思えません。このようなコンセンサスを求めない強い意思決定力こそが一条工務店の急成長の最大の立役者と思います

全ての強みと表裏一体となった一条工務店の弱み

上記で挙げてきた一条工務店の強みはここまでの一条工務店の急成長を支えてきたことは間違いありません。

また、しばらくはさらなる急成長は望めなくてもこれまでの蓄積があるため当面の維持は可能かもしれません。しかし、一方で、上記で挙げた強みは今後の一条工務店にとって弱みともなり得るものと思います。

今後一条工務店が更なる成長を遂げるか、それとも一時的な成功に終わり衰退していくのかは今後にかかっているように思います。

なぜ強みと弱みが表裏一体となるのでしょうか・

一条工務店の弱み~ラインナップの少なさ~

一条工務店の強みはセゾン、i-cube/ismartという、言ってしまえば2つの住宅ラインナップだけの商品展開で急成長を果たしてきたことにあります。ラインナップ数を少なく抑えることで、生産の均一化を図り、低コスト化を実現してきたと言えます。

2つのラインナップしか持たないというのは他のハウスメーカーに比べて極めて少ないものとなっています。例えば積水ハウスであれば21種類、住友林業で13種類、パナホームなどでも9種類の住宅タイプのラインナップをそろえています。

ラインナップの多さは営業担当者の負荷を増大し、施工時の複雑さを上昇させ、コストを高止まりさせるというデメリットがあります。

しかし、ニーズの変化には柔軟に応えることができるという点で長期的な安定が見込めます。

例えば、年間施工棟数が一時的に1万棟を超えていたタマホームの急成長を支えたのはそれまでの住宅の常識を覆す「坪単価25.8万円」をキャッチフレーズにした「大安心の家」であったと思います。坪単価は「タマホームで家を建てるのに必要なお金と値引き」に詳しくまとめていますが、実際は40万円台です。

タマホームはその後大安心の家以外に複数のシリーズを展開してはいますが、大安心の家のような売れ方はしていません。そして、大安心の家による一点突破で急成長を遂げたが故に、その後の社会的な背景の変化等によってローコストだけでは満足できないという層が増えたこと、そしてローコスト住宅に多くの参入があったことで過当競争が生じた結果、販売棟数を大きく減少させ現在に至っています。

このように少数のラインナップで一点突破的に急成長をした企業の多くは、その商品が売れなくなることで一気に急落することがしばしばあります。

一条工務店はタマホームに比べれば、セゾンとi-cube/i-smartという2つの看板商品を持っており、タマホームほどの急落はしないものと思います。これは推察ではありますが、ネットではセゾンのお宅を見かけることは多くなくi-smartが圧倒的に多い印象ですが、おそらくは依然としてセゾンが3割程度は売れており、販売棟数にして3千棟、i-smart系が8000棟という構成を維持できているように思うのでi-smartの売れ行きが不調に陥ったとしてもセゾン系の維持によって大きな落ち込みは避けることができます。しかし、i-cube/i-smart系の販売棟数が大きく落ち込めば一条工務店の施工棟数一位の座はすぐに奪われることになります。

一条工務店のi-smartやi-cubeはどうしても外観が同じようなものとなってしまいがちです。こうしたデザイン面では流行廃りがあり、あまりにも多く売れすぎた商品はその後売れなくなることは良くあるため、i-smart/i-cube以外の商品(デザイン)展開が行えるかどうかが今後の成長維持に大きく影響する物と思います。

一条工務店の弱み~フィリピン工場の存在~

一条工務店のフィリピン工場は基本的に人海戦術による製造であると思われることから、仮にラインナップが増えたとしても現在のフィリピン工場の規模であればかなりのラインナップ数でも十分に応えることができると思われます。ラインナップ数が増大したとしても、フィリピン工場よりもむしろ国内で施工を担う大工の方達の対応力の方が問題になってくると思います。

ただ、一条工務店を支えるフィリピン工場の存在は今後も一条工務店の生産を支える上で欠かすことができない存在であり続ける一方で、そのフィリピン工場自体も大きな問題を抱えています。

それは、フィリピンにおける人件費の高騰です。下のグラフはフィリピンと日本の失業率の推移です。

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フィリピンと日本の失業率推移

2000年代前半までフィリピンの失業率は10%前後でした。日本の失業率は上昇したとは言え5%前後で有り国家としての平均年齢の若さもあり人的資源は極めて豊富なものでした。しかし、2006年以降フィリピンの失業率は好景気を背景として減少を続け、6%前後まで下がってきました。失業率が下がれば当然人件費は上昇します。

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フィリピンの一人あたりGDP

フィリピンの1人あたりGDPは2000年代初頭まで1000ドル台だったものが、近年では3000ドル近くまで上昇しています。

もちろん1人あたりGDP4万ドル前後の日本と比べればまだまだ低水準ではあります。

下のグラフは、日本、中国、フィリピンの1人あたりGDPのグラフです。

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日本、中国、フィリピンの1人あたりGDP

こうしてみると、フィリピンの人件費は高騰しているとは言え、まだまだ低い水準であることがわかります。

また、近年問題となっている中国の人件費高騰に比べるとその上昇の程度は十分に緩やかと言えます。しかし、単純にフィリピン工場設立当時と比べると工場の人件費は3倍に上昇していることを意味しており、決して無視することはできません。

また、これは一条工務店の責任ではなく日本経済の課題として日本経済は今後人口減少に伴う縮小があることは疑う余地がありません。

そこで起こることはこれまでの主要通貨の1つであった「円」の力が弱まるという減少です。「円」の力が弱まれば相対的に海外通貨が強くなります。すなわち円安ドル高にになり結果的に輸入産業は力を弱めることになります。フィリピンは平均年齢の若さが維持されており長期的に成長が見込める一方で、日本は高齢化に伴い経済は縮小します。フィリピン通過のペソが強くなり円が弱くなれば結果的に輸入にあたるフィリピン工場での生産コストは上昇することになり、一条工務店の低価格を支える主軸に大きな打撃を与えることが懸念されます。

一条工務店の世界展開とフィリピン工場の課題

私自身は一条工務店のフィリピン工場にはもう一つの課題があると思っています。それは労働者による権利の主張とそこへの対応コストの上昇です。

人件費が増大し生活が豊かになった労働者は当然権利の主張を行います。これは労働者の権利として守られるべき物ですし、また、国外に出て行く企業である以上、その企業の倫理的な責任として絶対に守るべきものと思います。これは一条工務店という一企業の問題ではなく、日本という国家の在り方の問題と思います。また、それが結果的に企業のブランド力の礎ともなります。

しかし、一条工務店のフィリピン工場では下の記事で書いたような労働者の権利保護の観点からの課題が見え隠れします。

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このような問題は日本国内にいるとなかなかピンときませんが、一条工務店が日本国外での住宅販売を考える場合には無視することができないものとなり、結果的に企業の崩壊をも招きかねない重大な問題と思います。

ここまでは主にハウスメーカーの国内展開を主としてきましたが、先ほどまでに示してきたように日本国内の住宅市場はどうあがいても縮小産業であることは間違いありません。しかし、日本以外の国に目を向ければ住宅ニーズはむしろ上昇しています。

フィリピンのような新興国はもちろん、アメリカや世界経済の上昇に伴う資源ニーズの上昇に応じたオーストラリアのような国では日本の住宅の何倍もするような住宅が売れている成長市場が存在します。

日本の住宅産業というのは世界的に見て様々な面で特殊な成長を果たしてきました。そもそも、これほどに長期にわたって新設住宅が建築され続けている先進国は日本以外にありません。それ故に日本のハウスメーカーの住宅建設に関する技術力は他国よりも優れた面をたくさん有しています。もちろん、その国々の風土の中で成長してきた住宅産業はそれはそれで強さを有していることは間違いありませんが、それでもなお日本の大きな資本力を有するハウスメーカーという存在は海外に出て行くだけの力は有しているように思います。

実際、積水ハウス大和ハウスなど大手のハウスメーカーの多くが海外への事業展開を行っています。

そして、一条工務店もまたアメリカオーストラリアへの事業展開を行っています。

ちょうど先月シアトルに出張の際少し時間があったのでシアトルの市街から20分ほどの場所にあるIchijoUSAが建築した住宅を散歩がてら歩いてきました。

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2011年に販売された住戸であることからやや古さは感じた物の日本の一条工務店の住宅とは全く違った趣の住宅が多数ありました。どちらかと言えば日本の分譲住宅に近い形の住戸となっています。

このように世界展開をする上では、人権を重視する米国やオーストラリアなどの国ではフィリピン工場の取り組みをどのように伝えるかが大きな課題となるように思っています。

一条工務店が何か悪いことをしているというのではなく、黙って真面目にやっていれば良いのだ、という価値観は日本では通用しても世界では全く通じない価値観だということです。

一条工務店の弱み~世代交代~

そして、一条工務店が抱える最大の課題は、強いリーダーシップの下で成長してきたことにあると思っています。

企業の強いリーダーシップは「ここまで成長を遂げることを実現した創業者」故に実現できるものとなります。そうした、実績あるリーダーが何かむちゃくちゃなこと、例えば50億円でなんら実績も技術も無い太陽光発電工場を買ってしまえ、と言えば、周りは懐疑的に思っても、リーダーが語る理想を信じ、自分たちの信じるリーダーが言うのならば付いていこう、と思って事業を遂行することができます。

しかし、裏を返せば、どれほど先見性がある人材がいたとしても、創業者と同様の実績を持たないリーダーがむちゃくちゃとも受け取られる理想を語っても、それが仮に社長であったとしても事業はなかなか成功しません。

仮に創業者と新たなリーダーが全く同じことを言っていたとしても、創業者が言うと成功し、新たなリーダーが言うと失敗するということは非常に良くあることです。こうしたケースは日本企業を見渡しても枚挙にいとまがありません。

このとき新たなリーダーの優秀さはほとんど関係ありません。創業者であるか、そうでないかの違いだけです。

この問題は企業にとって極めて大きな問題で、世界に誇る日本企業であるトヨタ自動車でさえやはり創業一族に依存していると言えます。

そう考えたとき、一条工務店の創業は1978年です。

創業者が何歳で一条工務店を創業したかはわかりませんが、どれほど若くして創業していたとしても年齢は70代です。

今後住宅の高性能化、高付加価値化には自動車産業と同様、住宅に関する技術だけではなくスマートハウスを代表としたエネルギーシステム、さらにはAIを活用した高性能化が不可欠なものとなります。こうした新たな先進的技術の理解にはどうしても「若さ」が有利に働きます。

そして、AI、IoTといった住宅産業とは全くなじみのなかった新たな技術によって、高性能な住宅を建てることの意味や意義、そして将来の理想を創業者ではない新たなリーダーは、創業者以上に人を惹きつけるものとして描くことが求められます。

こうした先進技術と住宅技術を融合し、サイモン・シネックが言う「Why」を語れるリーダーが必要となります。

一条工務店はまさに創業者がリーダーとなり、Whyを語りプレカット工場を作り、Whyを語りフィリピン工場を作り、Whyを語り太陽光工場を自社建設し、Wyhを語って誰も参入していなかった高断熱高気密+全館床暖房住宅を作ってきました。

世代交代が待ったなしの状況で、いままでWhyを語ってくれていたリーダーが不在になった時、新たな世代にバトンタッチし、AI、IoTといった先進技術と住宅技術を融合した高機能・高付加価値な全く新しい住宅の「Why」を語れる中興の祖があらわれるかどうかが一条工務店が今後も成長するのか、はたまた衰退するのかが決まってくるように思います。

極論すれば、ここまで事細かに書いてきた賃貸市場だとか、積水ハウスや大和ハウスの動き、海外展開そんなものは非常に些末なことで、この新たな住宅価値のWhyを強く語ることができるリーダーが現れれば2万棟もすぐに達成できるでしょうし、HowやWhatしか語れなければすぐに1万棟を切ることになると思います。

一条工務店にとって強すぎるリーダーの存在は次世代の成長を阻害するという問題が今まさに最も重要な課題と思います。

冗談半分、本気半分で思うのは一条工務店の家で網戸が標準になった時は一条工務店の衰退の始まりなのだろうと思います。

まだまだ調べたこと、書きたいこと、特に一条工務店の収益構造とか高断熱高気密に対する他のハウスメーカーの動向やZEHに関する動き、スマートハウスに関する動きなどなど、(個人的には)非常に面白いことがたくさんあるのですが、長くなりすぎたのでここで終わりにします。。。。

とりあえず、一条工務店に潰れられると我が家のアフターサポートが困るので我が家が建て替えをしなければならなくなるまで頑張ってね!一気に書いたら疲れた。。。