【追記】一条工務店床下のカビはしばらく様子見がお勧め?~拭き取りは防蟻処理に影響を与えない?~

一条工務店の住宅で床下(基礎内)のカビが問題になっています。

この床下のカビについての個人的な意見をまとめさせていただきます。

新築の家の床下にカビが生えていれば不安になる方も多いと思います。しかし、気持ちの部分は一旦横に置いて置くならば、一条工務店の家で発生している床下のカビについては過剰に反応する必要はなく、現時点ではカビが生えても放置しておいて問題ないと考えます。というか、放置が正解と考えています

どうしても気になるようであれば、一条工務店がよく使う消毒薬のオスバン(塩化ベンザルコニウム)という消毒薬で拭き取りをしても良いと思いますが、個人的にはこちらの対応が果たして正しい対応なのか疑問を持っています。カビは生えなくなったけれど別の問題を生じさせる、具体的にはシロアリ被害を増やす可能性を危惧しています。

そもそも、おそらく塩化ベンザルコニウムで消毒すればカビの発生は一時的に止まりますが、新築から2年目あたりまでは再びカビが生えてしまうことは十分に起こりえると思います。

一度対応したのに再びカビが生えれば気持ち的に許せない感情は強くなるでしょうし、手間ばかり増えて問題が解決できないことに怒りたくもなろうかと思います。

そうであれば、カビが生えていることは気にはなると思いますが、実害はないという現状をきちんと理解した上で、放置するのが良いと思っています床下にカビが生えていることで監督などに怒りをぶつけてしまった方もいらっしゃると思います。どうか間違わないでいただきたいのは、怒りをぶつけてしまうのは極々当然のことと思いますし、一生を掛けて支払を続けなければいけない「家」という買い物である以上、当たり前のことと思っています。せっかくの新築の家にカビが生えていた、なんて普通の感覚では許せないことと思うのは当然のことと思います。

一番の問題は床下内の一時的なカビの発生は建築前から分かっていることなのですから、一条工務店の監督なりがお客さんにわかりやすく問題の発生原因と、今後の対応についてしっかりと説明しなければなりませんし、また、営業さんは設計打合せの段階でお客さんにカビの可能性を説明する必要があるはずだと思うのです。特に床下収納を希望されているお宅には、かなり丁寧な説明が求められますが、これを行っていないことが一番の問題と思っています

前回、前々回のブログでキッチンカウンター下のカビについては対策の必要性を言っておきながら、基礎内のカビについては無視して構わないということに矛盾を感じるかも知れませんが、矛盾したことではないのです。。。

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今回は、なぜ床下にカビが生えても問題ないと言い切れるのか、また、下手に拭き取りをするよりも放置する方が良いと考えるのかについて書かせていただきます。

目次

カビが発生することは何が問題なのか?

一言でカビと言っても種類はたくさん

カビなんて生えないにこしたことがないのは当然です。

しかし、なぜカビがここまで嫌われるのでしょうか??ゴキブリと一緒で嫌なものは嫌というのはあるとして、具体的にどのような問題があるのか?ということに立ち返って考えてみたいと思います。

一言でカビと言ってもカビには多くの種類があります。また、カビの胞子は私たちが生活する空間のどこにでも存在しています。

カビへの対応を考える上では、カビの何が問題かを正しく理解することが重要です。

食品に生えるカビ~有害性~

最も身近なカビで、問題も分かりやすそうなカビとして、ご飯やパンを置きっぱなしにして生える黒カビ、青カビ、コウジカビなどがあります。

コウジカビや青カビの一部にはブルーチーズやゴルゴンゾーラチーズを作るのに有用なカビもありますが、毒性を有するカビも多くカビが生えてしまった食品は口にしない方が賢明です。

特に有名なのがピーナッツに発生しやすい、アフラトキシンという発がん性物質を生成するアスペルギルスというカビと思います。アフラトキシンは現在知られている範囲で自然界に存在する物質の中で最も高い発がん性を有しており、輸入されるピーナッツなどでは厚労省によって厳しい基準が設けられています。

また、カビは食中毒の原因となる食中毒菌の生育環境と類似した環境で発生することから、カビが生えたものを食べると食中毒になるといったイメージを持たれることも多いです。

いずれにしても、一部に有用なカビがあることも事実ですが、原則はカビが生えてしまった食べ物を口にすることは健康を害する可能性があるため食べるべきではない、というのは当然のことと理解できます。

先の記事で書いたキッチンカウンター下のカビが問題と思うのは、なによりも人間が口にする食品と密接に繋がった食器や食品、調理器具を格納する場所でカビが発生してしまうということと思います。通常のカビは人が口にして良いことがありませんので、やはりキッチンカウンター下にカビは発生するのは避けるべきことと思います

室内に生えるカビの問題~見た目の悪さ~

人が口にしない住宅建材にカビが生えることは何が問題なのでしょうか?

室内のカビの問題は、やはり見た目の悪さが一番の問題と思います。特にお風呂のコーキング部分や排水溝周りのカビを気にされる方も多いかと思いますが、コーキング部分に一度カビが生えるとなかなか取ることができません。下の写真(一条工務店の家ではありません)のように目地にカビが生えてしまうと気持ちよくお風呂に入ることができなくなってしまいますし、綺麗にすることも難しくなります。

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このようにカビが生えることは綺麗な見た目を維持する観点からも避けるべきであることは当然です。

室内に生えるカビの問題~アレルゲン~

では、室内に生えるカビは何が問題なのでしょうか?

室内にカビが生えたとしても、それは食べ物ではありません。もちろん小さな子どもが触ったり舐めたりするような場所は口に入れてしまうこともあるため、食品と同様の理由からカビを避けるべきですが、そうではない場所のカビはどのような問題があるのでしょうか?

よくあるのは、古い断熱性能の低い住宅で外壁に面した壁に家具などを置いて置いたら裏側がカビだらけだったという経験のある方もいらっしゃるかも知れません。

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こうした部分のカビは家具などに隠れているので子どもが舐めてしまうようなこともありませんし、家具によって隠されているので目にすることもないので見た目にも影響を与えません。

しかし、カビ胞子は人によって違いますが、花粉症などと似たアレルギー症状を発症させるアレルゲンとなります。

また、カビを食料とするダニを発生させる原因にもなります。ダニは人間を直接刺すダニはもちろんのこと、ダニの死骸やフンもアレルゲンになりますので発生を避けるべきです。

食品のように直接口にすることがないカビであっても室内にカビがあって良いことはありません。

建築部材に繁殖するカビの問題~木材腐朽菌の繁殖~

住宅に生えるカビについてアレルギーと併せて気になる点として、「木材が腐るのではないか?」という不安もあるかと思います。

住宅用の木材が腐れば住宅そのものの強度が低くなり、耐震性は落ちますし、将来の耐久性にも影響します。

ただし、木材にカビが生えても木材が腐ることはありません。木材を腐らせる原因は「木材腐朽菌」というカビ菌とは異なる菌が木材に繁殖することに起因します。

この木材腐朽菌はカビの繁殖条件とよく似た環境(高温多湿)を好むため、カビが生えている環境では木材腐朽菌も繁殖しやすいと考えるべきです。

さらに、カビが生え、木材腐朽菌が繁殖する環境はシロアリにとっても好ましい環境であるため、シロアリが発生することでさらに状況を悪くします。

カビ自体が木材を腐らせることはなく、カビが生えたからと言って直ちに木材が腐ってしまうようなことはありません。しかし、カビが生えているということは木材腐朽菌が繁殖しやすい環境にあることは間違いはなく注意を要します。

以上がおおまかなカビが生えることによる住宅やその住宅に住む人に与える影響となります。

このことを踏まえて、今回の一条工務店の基礎内のカビ問題について考えます。

基礎断熱工法と床下断熱工法

ネットや専門誌でも警告されている「基礎内のカビ」

住宅の基礎を覗いてカビが生えていたことに不安を感じられた方の多くはネットなどで基礎内のカビについて調べられるかと思います。

試しに「住宅基礎 カビ」で検索すると、検索結果に出てくる情報のほとんど全ては「基礎内のカビの危険性」を述べています。

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ここで注意して欲しいのは、その多くに「基礎断熱」というキーワードが入ってる点です。

基礎断熱工法と床下断熱工法の違い~床下は室内か?室外か?~

住宅の断熱工法にはいくつも方法がありますが、非常に大きな括りとして「基礎断熱工法」と「床下断熱(床断熱)工法」という2つの工法があります。

一条工務店では全ての住宅タイプで「床下断熱工法」が採用されています。というか、現在建築されている大半の住宅は床下断熱工法となっていて、基礎断熱工法は比較的新しい工法となっています。

基礎断熱工法と床下断熱工法の違いは、「基礎内を室内とするか?室外とするか?」という違いになります。

下の図は住宅の基礎周りの断面と思っていただければと思いますが、一般的な床下断熱工法では断熱材は床のすぐ下に取り付けられます。

そして断熱材よりも室内側に「気密層」が存在します。断熱材そのもので気密を取ることも多くありますが、こうしないと結露が発生します。

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床下断熱では床の部分に気密層があるため、基礎内の空気と室内の空気は原則交わることはありません。そのため、仮に基礎内にカビが生えたとしても、カビの胞子を多く含んだ空気が室内に入り込むことはありません

一方で、新しい工法である基礎断熱工法の模式図は下のようになります。

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基礎断熱工法では、床部分に断熱材を施工することなく。基礎内部の外気と接する面に断熱材を施工します。地面と接する部分については地熱が伝わるため断熱材がなくても夏は冷たい、冬は温かい熱が伝わってきます。

基礎断熱工法では断熱・気密範囲の違いから、基礎内部と居室内を空気が流れます。

基礎断熱工法には多くのメリットがあり、「高気密施工が比較的容易に行える」というメリットから、中小工務店が高気密高断熱住宅を施工する際に多く採用されています。

また、地面の温度は冬であっても空気に比べると安定していることから、夏涼しく、冬温かい住宅を実現しやすいと言ったメリットもあります。これから家を建てる方ですと「床下暖房」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、基礎内部に暖房器具を設置して、床下部分を温めることで床暖房のように複雑で高額な装置を設置しなくても床が温かく床暖房のように住宅全体を温めてくれる暖房方法も採用できるというメリットもあります。

一方で、基礎断熱工法では基礎内部に結露等が発生してカビが発生した場合、その空気は室内に流れ込んできてしまうという問題が生じます。

新築してから2年程度はコンクリートからの放湿もあり、基礎内はカビが発生しやすい状況にあることから、基礎断熱工法では基礎内に如何にしてカビを発生させないかが重要になってきます。

基礎内のカビが直ちに問題になるのは基礎断熱工法の場合のみ

ここまでの情報を踏まえてもう一度ネット上の情報をご覧下さい。その多くが、「基礎断熱工法の住宅における基礎内のカビの問題」を指摘していることがわかるかと思います。

基礎断熱工法の住宅では、基礎内にカビが発生するとカビ胞子を多く含んだ空気が室内に流れ込んできますから、先に挙げた問題のうちアレルギーを引き起こす原因ともなり得ます。

一方で床下断熱工法の住宅では、仮に基礎内にカビが発生したとしても、カビ胞子を多く含んだ空気は室内に入り込むことはなく、基礎パッキンを通じて外気に放出されます。

基礎断熱工法の住宅では基礎内にカビを発生させることは健康被害を招くリスクを上昇させることから、基礎内のカビには十分な注意が必要です。一方で、床下断熱工法の住宅では、基礎内にカビが発生しても、そのことで健康被害を引き起こすことは通常は考えにくいものとなります

一条工務店の住宅は全ラインナップで床下断熱工法が採用されているため、基礎内にカビが発生したとしてもそれが原因で室内にカビ胞子が室内に流れ込み、健康被害を及ぼすことは考えにくいものとなります。

基礎を腐らせることはないのか?

一条工務店のような床下断熱工法の住宅では仮に基礎内にカビが生えたとしてもカビ胞子を多く含んだ空気が室内に入り込むことはなく、健康被害を及ぼす可能性は低いことは分かりました。

しかし、基礎内にカビが生えているということは木材を腐らせる木材腐朽菌も発生しやすい状況にあり、また、高温多湿を好むシロアリも発生しやすい状況にあることから、健康被害がないから大丈夫とは言えません。

ただ、この点についても数年程度であれば問題が起こることはないと考えます。

ご存じの通り、一条工務店の住宅では1階の構造用木材にはACQという薬剤による加圧注入式の防腐防蟻処理が行われた木材が使用されています。

ACQというのは銅化合物(酸化銅)と塩化ベンザルコニウムという殺菌消毒薬の配合剤であることから、シロアリに効果があるだけではなく、殺菌効果もあります。

ここで、一つの疑問が生じます。殺菌効果のあるACQが加圧注入された木材にカビがなぜ生えるのか?という点です

これはACQの特性が関係します。ACQという薬剤は木材の表面に塗っただけではあまり効果が期待できませんが、木材中に浸透させることで水に溶けない銅に変化し木材中で殺菌力を発揮するという特性を持っています。そのため一条工務店がアピールする加圧注入によって強制的に木材中に浸透させることが必要となる薬剤となっています。

こうすることで、木材表面の殺菌力はそれほど強くないけれどカビや木材腐朽菌が木材内部を浸食することを防止してくれます。しかし、木材表面の殺菌力はそれほど強いわけではないためカビのように強力な菌は表面の有機物等を栄養源として木材表面に繁殖することがあります。

しかしACQによって防腐処理されている木材は、数年程度カビが繁殖しやすい環境に放置したとしても木材自体が腐食するほどの木材腐朽菌が繁殖してしまうことはまずありません。

実際、森林総合研究所ではACQ加圧注入木材を風雨にさらされる野外に置いた状態で試験を行っており、30年以上に渡って劣化が見られないことが報告されています

このことから、新築から数年程度の期間基礎内がカビが繁殖しやすい環境になっていたとしても、そのことによって基礎の構造材が腐食することはまず考えられません。

よって、カビが生えたからと言って直ちに住宅の耐久性に影響を与えるような腐食を引き起こすことは考えられません。

じゃあ10年間カビが生え続けても大丈夫なのか?~まず数年は様子見を~

2,3年カビが生える環境であっても住宅の構造用木材に問題が生じないことは分かったとして、じゃあ、10年間放置したらどうなのか?20年放置したらどうなのか?といった疑問も出てくると思います。

森林総研の研究結果から、10年、20年高湿度環境においてもACQ加圧注入された木材が腐食することはないと考えますが、個人的には、新築から3年間は様子を見て、それでもカビが発生するようであればそれは異常ですから一条工務店に対応を依頼するのが良いと思っています

なぜ3年かというと、おそらく現在基礎内にカビが生えてしまった大半のお宅で、3年後にはカビの発生は見られなくなると考えているためです。

基礎コンクリートからの水蒸気蒸散量はざっくり1日10リットル

一般にコンクリートは水とセメントを混ぜて作られています。コンクリート自体は数日で強固に固まりますが、内部に残った水分は時間を掛けて徐々に蒸散していきます。

建築学会等の論文を調べてみると、おおよそ2年間はコンクリートから水蒸気が放散され続けるとされています。

35坪程度の住宅であれば、基礎内から放散される水の量は非常にざっくりで7トン程度になるかと思います。これを2年間730日で割るとざっくり1日10リットルの水分が蒸散することになります。

すなわち、新築から2年程度は基礎内に大きめの加湿器が1台設置されているような状況にあります。上記は夏冬関係なく平均した値ですので、夏はもっと多くなるかと思いますし、新築直後はもっと多くなるはずです。

住宅の立地などによりますが、このような水蒸気の放散があることで新築から2年程度の期間は基礎内が高湿度になりやすい状況にあり、結果的にカビが発生しやすくなっています。

しかし、3年経過すれば、理論上コンクリートからの水蒸気の蒸散が収まってくる3年目には水の供給源がなくなるため、カビの繁殖は止まると考えられます。

もしも、3年経過してもなお、基礎内にカビが多く発生しているということになれば、コンクリートからの蒸散以外の水分の供給源があることが考えられますので、何らかの異常を考慮して一条工務店に連絡をして確認をしてもらうことをお勧めします

3年を待たずにすぐにでも確認を依頼した方が良いケース~水たまりがあった場合~

基礎内部を除いた時にカビが生えているのがわかる程度であれば、後になってから前から気が付いていたということが主張できるようにするために「カビが生えている」ということを監督などに一報しておいても良いと思いますが、すぐに対応をする必要はないと思っています。というか、対応してもまたカビが生える可能性が高いためしばらく様子を見る方が良いと思っています。

しかし、これも程度問題で、特にコンクリート表面が濡れていないのにカビが生えているのであれば放置しても良いと思いますが、基礎内に水たまりができるほどに結露が生じているような場合はなんらか対応をした方が良いと思いますので、一度来てもらって対応をしてもらうのが良いと思います。

水たまりがあると、水たまりの中にボウフラが沸いてしまったり、水カビのようにヌルヌルしたカビが生えたりと後々の清掃も大変になりますから、早めの対応をお勧めします。

基礎内のカビの問題はずっと前からある問題

多くの住宅で基礎内にカビが発生してクレームになっている

最近発売された日経ホームビルダーという専門誌で、「住宅に広がるカビ汚染」という特集が組まれていました。

 

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日経ホームビルダーは住宅の建設を請け負う工務店の方などを対象とした雑誌ですが、このような雑誌でも大々的に特集が組まれる程に、近年住宅のカビ被害は無視できないものとなっています。

内容を抜粋すると、

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読者を対象としたアンケート調査でも1割以上の工務店等で過去三年以内にカビへの対応経験があったと答えています。

平均な工務店の年間施工棟数は、10棟未満であることを考えれば、一条工務店のように年間施工棟数1万棟以上のハウスメーカーになれば、その数は極めて多くなることは想像に難くありません。

では、具体的にどのような場所のカビが問題になったかというと、最もクレームとして多かったカビ被害の部位は、「床の構造」となっていました。

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上記の写真はなかなかショッキングなものですが、今回の一条工務店の住宅で起こっているカビの問題と同様に基礎内のカビがクレームの多くを占めていることが分かります。

上記の写真の住宅では、居住者が夏型過敏性肺炎を発症したとの記載もあります。こうしたことから、カビの問題は過剰に捉えすぎる必要はないものの、無視して良いものではないこともわかります。ただし、こうした基礎内のカビによって居住者に健康被害をもたらしたお宅の多くは「基礎断熱」であったということもきちんと理解しておかなければなりません。

基礎断熱の住宅では、基礎内にカビが繁殖してしまうことで居室に通常よりも多くのカビ胞子を飛散させ健康被害を及ぼすことがあります。

基礎断熱だけではなく、気密性能が低い住宅でも基礎内にカビが繁殖すれば室内にその空気が入ってくることはありますが、一般に気密性が低い住宅ではコンクリート等から蒸散した水蒸気が基礎内に留まりにくいため、カビ被害は起きにくいと考えられます。

なぜ基礎内のカビが増えているのか?~高気密化&ベタ基礎~

一条工務店の住宅に限らず、基礎内のカビ被害は近年増加傾向にあると推察します。

その一番の背景は「高断熱高気密化」住宅が増えていることが背景にあります。気密性能が低い住宅であれば、よく言えば通気性が良いため、居室内はもちろん、基礎内にも湿度は留まりにくくなります。しかし、住宅の高気密化が進むことで、結果的に居室内や基礎内に湿気が溜まりやすくなり、カビの問題が増えているとされています。

そして、もう一つが「ベタ基礎」の住宅が増えたことが原因の一つとして挙げられます。

従来の布基礎であれば、床下はすぐに地面になっていました。一方で、ベタ基礎にすることで基礎内は完全にコンクリートで囲まれてしまいます。

先に書いたようにコンクリートは多くの水分を含んでいるため、基礎内が高湿度になりやすくなります。

ただし、これは推測ですが、布基礎であっても基礎内のカビは多く発生していたはずです。地面からの蒸散量は相当な量になり、また、通気性を確保しているとは言え、閉じられた空間である基礎内でカビが発生しないはずがありません。問題にならなかったのは、地面が見えているような場所にカビが生えたとしても、それがクレームにつながるようなことがなかっただけだろうと思います。

そもそも、地面が見えている基礎内に潜って基礎を見て見ようという人もあまりいなかったはずです。

こうした背景から、基礎内のカビが増えたということももちろんありますが、基礎内のカビが居住者の目に付きやすい環境になったことが、基礎内のカビ被害の増大に繋がっているのだろうと思っています。

一条工務店でも昔からあった基礎内のカビの問題と一条工務店の対応

今回インスタなどの写真をきっかけに一条工務店の住宅における基礎内のカビの問題が話題となりました。

一条工務店の基礎内のカビについては、今にはじまったことではなく少なくとも私が家を建てた5年程前からちらほらと話題になることがあった問題です。

また、ブログを通じてメールなどでも問い合わせをいただくことも多い問題でした。

例えば下の一条工務店で家を建てられたお宅は既に引き渡しを終えて、住み始めた状態ですが、コンクリートが湿った状態にあることがわかります。

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こちらのお宅でもやはり基礎内にカビが生えてしまっていました。一条工務店の対応は部材の交換はなく、カビについては塩化ベンザルコニウムという殺菌消毒薬で拭き取りをするという対応となっていました。

別に昔からある問題だから大丈夫ということではありませんが、しかし、極めて希な問題でもないため、ある程度対応方法は決まっています。

基本的には、基礎内を扇風機などを使って乾燥させ、その後、カビが酷いようであれば塩化ベンザルコニウムで拭き取りを行うと言った対応となっています。

基礎内に限定する限り、短期間の基礎内のカビの発生は居住者に健康被害を及ぼすことはなく、また、見える場所でもないため、放置しても全く問題はないと思っています。

基礎内にカビが生えたらどうすれば良い?

まずは原因がなんなのかを明らかにする

基礎内にカビが生えているのを見つけたらどうすれば良いかについて考えます。

最初に確認すべきことは「基礎内にカビが生えた原因の特定」です。

基礎内にカビが生えるということは、基礎の内部が高湿度環境になっているということを示しています。

高湿度になるためには、かならずどこかから水分が補給されている必要があります。

基礎内に水分が補給される原因としては

  • 配管等の断裂による水漏れ
  • 結露水
  • コンクリートからの蒸散

の3つが考えられます。

基礎内のカビの原因特定方法

チェックポイント1:基礎内に水がたまっているか?→すぐ一条工務店に連絡して来てもらう

まず、最初に基礎内をのぞき込んで水がたまっている状態かどうかを確認してください。

そのとき、基礎内に下の写真のように水が貯まっていたら明らかに異常です。

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上の写真は私の家の基礎に貯まっていた水の写真ですが、下の写真のように基礎内に広く水がたまった状態にありました。

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原因は外構工事で盛り土をした部分から基礎内に水が染み出していたことが原因でしたが、この他にも過去の事例では上下水の配管のつなぎ目のシーリング不良などによって同様に水たまりができてしまっていた事例があります。

このように基礎内に広く水がたまっている状態はコンクリートからの蒸散だけで起こることはないため、何らかの異常が考えられますので一度一条工務店など施工会社に連絡をして基礎内を確認してもらうようにします。

チェックポイント2:コンクリートが湿っているか?→一度確認の依頼を

次に確認すべきポイントとして「コンクリートの色」があります。通常は明るいグレーとなっているはずですが、湿度が高すぎると下の写真のように基礎内のコンクリートが濡れた状態になっていることがあります。

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このようにコンクリートが目でわかる程に湿っているということは湿度は100%に近い状態にあります。仮にカビが生えていなくても放置すればカビが生えてくるのは時間の問題です。

一度ハウスメーカーに連絡をして内部を確認してもらうことをお勧めします。

この場合は住宅の立地の問題やコンクリートからの水蒸気の蒸散によって基礎内が高湿化していることが考えられます。

チェックポイント3:小さな水たまりや湿ったコンクリート部分がないか?→確認依頼を

上の写真のように基礎内全面に水が張っていたり、コンクリートが湿っている

コンクリート前面が湿っておらず一部分だけに水たまりがあったり、一部分だけが湿った状態にある場合は、蒸散による影響と併せて結露によって水分が供給されている可能性もあります。

これは特に夏場に起こりやすい現象ですが、基礎内にたまった温かくて比較的湿った空気と、水道管など冷たい部材が接することでそこに結露が生じることがあります。

一条工務店の住宅では水道管も含めて青やオレンジの断熱材がまかれているため、あまり結露が生じることはありませんが、断熱材が剥がれてしまっている等が原因で水道管が露出していると結露が生じ、そこから基礎内に水がたまっているケースがあります。

このような場合は、断熱材を補強すれば問題が解決できます。

チェックポイント4:コンクリートに異常は見られないがカビが生えている→連絡してしばらく様子見

最後に、コンクリート表面には異常はみられないものの、木材表面などにカビが生えているという状態が考えられます。おそらくこのケースが最も多いケースと思います。

この場合は、急いで対応をする必要はありません。

カビが生えているという連絡を一条工務店の監督などにして、時間のあるときに来てもらっても良いですし、数年様子を見ても良いかと思います。

ただし、その間は床下収納などに食品を入れるとカビが生えやすいため注意を要します。

基礎内のカビへの対応

すぐできることは限られている

基礎内にカビが生えてしまった場合、すぐにでも何とかして欲しいという気持ちが強いかと思います。

しかし、すぐにできることは限定的です。

一条工務店では、カビが生えたという知らせを受けると、基礎内を扇風機などを使って乾燥させ、カビが酷い部分については塩化ベンザルコニウムで殺菌拭き取りを行っているケースが多い様です。

しかし、残念ながらカビが再度発生するお宅も少なくありません。

いずれの方法も場当たり的対応に留まっているのが現状です。

カビの発生抑制方法は1つだけ~水分の補給源を絶つこと~

カビの発生を抑制するための拭き取りはあまり意味がありません。

カビの発生を防止する方法は1つしかありません。それは、カビが発生しやすい環境を緩和することです。具体的には、湿度を下げることが最も重要な対策です。

方法としては、基礎内を高湿化させている原因である「水分の補給源」を絶つことです。

カビが生えてしまったものを拭き取っても、カビの胞子は空気中に大量にあるため、カビが発生しやすい環境であればまたすぐカビが生えてしまい、負担の割に効果は期待できません。

水分の補給源としては先に挙げた、水道管などの水漏れ、結露水、そしてコンクリートからの蒸散が考えられます。

水漏れの場合は水漏れの原因を塞ぐことで水分の補給源を絶つことができます。結露水の場合も、断熱材破損箇所を補修するなどすることで水分の補給を絶つことができます。

この2つが原因であれば、監督などに対応を依頼することでその後カビが生えることはなくなるはずです。

しかし、コンクリートからの蒸散が水分の補給源である場合は、残念ながら時間が経つのを待つより他ありません

水漏れなどの明らかな不良による水分の補給源がない場合は、おそらくコンクリートからの蒸散が疑わしいため、2年程度はカビが生えてしまいます。対策方法はありません。

基礎内に防湿剤を入れてはどうか?

基礎内にカビが生えてしまい、その原因がコンクリートからの水分の蒸散による高湿化であるとした時、その対策として「基礎内に除湿剤」を置くという方法が考えられます。

しかし、残念ながら効果はほとんどないと思われます。

新築から2年程度は基礎内では1日に10リットル近い水分の蒸散が起こっています。そのため、除湿剤を置くとしたら、1日10リットルの3割程度である3リットルは除湿しなければカビは生えてしまいます。1日に3リットル、1年で約1トンの水分を除湿しなければならないことになります。

一般に販売されている押し入れなどにいれる防湿剤では1トンもの水分を吸い取ることは不可能です。それこそ基礎内一杯に防湿剤を詰め込まなければなりません。また、木炭などの昔からの防湿剤でもこれほどの湿度を吸着することはできません。

そもそも、木炭などの防湿剤は湿度が大きく変化する場合に、吸着した水分を湿度が低い時間帯に放湿することで基礎内の湿度を安定させるものであって、常時コンクリートから水分の蒸散が行われているような環境には不向きです。

機械式の強制除湿機を設置すれば除湿は可能ですが、基礎内にそのような装置を設置することはスペース的にはもちろん、コスト的にも難しいです。

そのため、コンクリートからの蒸散が主な水源であるケースでは、対応方法はない、というのが現実です。

基礎内のカビは施工不良か?

基礎内のカビの原因が、水漏れや断熱欠損等による結露であれば施工不良と言えます。しかし、コンクリートからの蒸散の場合は施工不良とは言えません。

なぜカビの生える家と生えない家があるかというと、最も大きな要因は住宅の立地にあると考えます。

風通しが良い住宅地の中に建った住宅の場合、基礎パッキンから通気が行われることで長期間にわたる高湿化は避けることができます。しかし、住宅密集地で風の通りが悪かったり、近くに畑や田んぼがあることで外気の湿度が高い地域に住宅がある場合は基礎パッキンからの通気だけでは基礎内が十分な換気が行われず、結果的に高湿化しカビが発生してしまいます。

床下断熱の住宅で防腐処理された木材を使っている住宅の場合は、仮に基礎内にカビが生えたとしてもそれによって生じる実害(健康影響・見た目への影響・耐久性)はありません。そのため、それ自体が施工不良であるとは言えません。

あくまで個人的な意見ですが、基礎内のカビの多くはその原因がコンクリートからの蒸散にあると思われるため、数年は様子見をせざるを得ないかと思っています。

気持ちが良いものではありませんが、こればかりは対策のしようがないように思います。

拭き取りだけでもして欲しい→本当拭いても防蟻剤は大丈夫か要確認

一条工務店では、カビが生えたお宅の木材や断熱材を塩化ベンザルコニウムで拭き取りしているケースが多い様です。

これまでお問い合わせがあったお宅でもそのような対応が行われていました。しかし、改めて考えた時、本当にこの対応が正しい対応なのかについて疑問が生じています。

まず、構造材に生えたカビについては、拭き取りをしても問題はありません。

気になっているのは床下断熱材に使われているウレタンの拭き取りです。

一条工務店では、ウレタン断熱材に対してニッソーコートというネオニコチノイド系農薬を表面に塗ることで防蟻処理を行っています。

構造材についてはACQの加圧注入木材が使用されているので、表面をゴシゴシと擦っても防蟻剤が落ちることはありません。しかし、ウレタン断熱材は薬剤を表面に塗布しただけです。

このウレタン断熱材を消毒薬でゴシゴシと擦ってしまうとニッソーコート自体が落ちてしまうと言うことは無いのでしょうか?

カビが生えた範囲が限定的であれば、仮に防蟻剤が落ちてしまったとしてもその周辺は防蟻剤が塗布された断熱材があるのでシロアリ被害を招くことはまずありません。

しかし、カビが生えてしまったお宅の中には、基礎内の広範でカビが発生しているお宅もあり、その場合は断熱材の大部分の表面を雑巾やスポンジで擦って清掃することになります。

このようなことをしても表面処理しかされていない防蟻剤が落ちることがないのかについては知見がありません。

そのため、もし広い範囲でカビが生えてしまって消毒薬で除去するという話になった場合は、断熱材に塗布された防蟻剤に問題がないことを十分に確認することを強くお勧めします。

ぶっちゃけ、基礎内にカビが生えていても実害は全くありませんが、防蟻剤が落ちてしまうと長期的にはシロアリ被害を招き住宅そのものがダメになってしまうことも考えられます。

そのため、個人的には消毒薬によって拭き取ることの是非について自身を持つことができないでいます。

基礎内の木材や鉄束にカビがびっしり!!→白華現象です。問題ありません。

基礎内にカビが生えるような環境では、鉄束が真っ白な白カビのようなものに覆われているのを見つけることがあるかも知れません。

下の写真は基礎内が湿った状態のお宅の写真ですが、銀色であるはずの鉄束が真っ白になり、カビのコロニーの様なものまで見られます。

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このような状態を見たら、白カビがびっしり生えてしまっていると不安になる方もいらっしゃるかと思います。

このような状況ででは、断熱材の表面も白いカビのようなものに覆われていることが多くあります。

しかし、これはカビではありません。

これはコンクリートから水蒸気とともに出てきた「カルシウム分」が固まったもので、カビのような生き物ではなく、あまりうまい例えではありませんが鍾乳洞のようなものです。

コンクリートには多くのカルシウム分を含んでいますが、これが水蒸気とともに蒸散し、木材表面や鉄束表面に付着し、水分が乾燥したことでカルシウム分だけが残って生じる現象です。

カビと勘違いされやすいものですが、コンクリート施工された基礎内ではよく起こる現象ですし、何か問題が出るものではありませんので気にする必要はありません。

まとめ

とりあえず3年様子見を

ここまでカビが及ぼす被害と、実際に基礎内でカビが発生してしまう要因、そして一部については対策方法を書いてきました。

しかし、多くのお宅で発生しているであろうコンクリートからの水分蒸発に伴うカビ発生については対策方法がないのが現状です。ただ、床下断熱施工である一条工務店の住宅に関しては、健康上の問題を引き起こすことは考えにくく、また、防腐処理された木材を使用していることから住宅の耐久性に影響を与えることはありません。

コンクリートからの水分の蒸散は2年程度続くとされていることから、新築から3年はカビが生えてしまってもあまり気にせず、3年程度経過してもなおカビが生え続けているようであれば対策を考えるのが良いと考えています。

新築直後にカビが生えて、すぐに拭き取りをしても、またすぐにカビが生えてしまったり翌年にカビが生えてしまったりと言ったいたちごっこになってしまいます。また、広範囲の拭き取りを行った場合は、表面処理しかされていない断熱材表面の防蟻剤が除去されてしまうことも懸念されます。

気にはなるかも知れませんが、様子をみるのが一番良い様に思います。

床下収納があるお宅ではしばらく床下収納は使えないかも?

床下にカビが生えてしまうことの唯一の実害は「床下収納が使えなくなってしまう」ことと思います。

一条工務店では床下収納はオプションであるため、わざわざ付けた床下収納が使えなくなってしまうことは明らかな損失です。

カビの低度にもよりますが、基礎内に多くのカビが生えてしまっているようなお宅では数年間は床下収納は使わない方が良いように思います。仮に使ったとしても、年単位で保管するような瓶に密封された梅酒などの保管に留めて、野菜などの保管はやめておいが方が良いかと思います。すぐにカビだらけになって食べられなくなってしまうので。。。

一条工務店は事前にカビの可能性をきちんと説明しては?

基礎内のカビは、床下収納が使えなくなることを除いては実害は生じません。しかし、新築の家にカビが生えたら気になるのは当然ですし、真面目に取り合ってくれなかったら怒りが沸いてくるのも極々当然のことと思います。

そうならないために一番良い方法は、設計打合せの段階で「基礎内にカビが生えることがあり得る」という話を説明しておくことのように思います

カビが生える可能性をしっかりと説明し、その理由も説明した上で、数年でカビが生えることはなくなり、あまりにも気になるようであれば数年を経た段階でカビの除去を行う旨を説明しておくことが必要と思います。

カビが生えてしまうことは住宅の立地や、その年の気象条件等に左右されるため事前にどの程度の頻度で発生することかを要することはできません。

しかし、カビが生えてから「カビが生えることはしばしばあることです」と説明されるのと、事前にしっかりと説明をされていた状態でカビが生えるのでは居住者の感じ方は全く違ってくるはずです。せっかく家を建てるお客さんに対して、カビが生えるというネガティブな情報を説明することは難しいと感じるかも知れませんが、仮に基礎内にカビが生えても気密性が高いためそれが室内に入ってくることがないことなども併せて説明するなどいくらでもポジティブに説明することは可能と思います。

上棟時の水濡れもそうですが、このカビの問題についても事前に説明しておくことが何よりも問題解決への近道と思います!

 

 

【追記】なぜ床下のカビが問題ないと断言できるのか?

いただいたご指摘:なぜ断言できるのか?もっと慎重になるべきではないか?

せいたんママさんよりコメント欄で下記のご指摘をいただきました。コメントをありがとうございますm(_ _)m

いただいたご指摘は多くの方にとっても疑問に感じる部分と思いましたので、本文に追記という形で回答をさせていただくことにしました。

やや複雑な話になるため、計算などが出てくることご容赦ください。

いただいたコメントは下記の通りです。

子供がアレルギー持ちのものです。

「床下断熱では、基礎内にカビが発生したとしてもそれが原因で室内にカビ胞子が室内に流れ込み、健康被害を及ぼすことは考えにくいものとなります」

と断言されてますが、このように断言して良いものでしょうか?
アレルギー持ちの子供の親からすると、もっと慎重になるべきではないかと思うのです 。。

カビの胞子もそうですが、カビに大量のダニが湧き、さらにその死骸が粉々になりアレルゲン性が高まりますよね。。
それらが床下に充満してる状態で、大人より床に近い場所にいるアレルギー持ちの赤ちゃんや子供に全く影響がないと言い切れますでしょうか。

それに、キッチンのコーキング不足の部分からも床下の空気があがってくるんですよね?リモコンニッチやスイッチ部分からもカビの匂いが上がってきてるという話も見受けられたので、胞子も結構侵入してくるのでは、と思ってしまいます。

一条の床下換気の構造に改善の余地はないのでしょうか??

基礎断熱を採用してる工務店さんで床下にしっかり換気システムを回し乾燥させ結露を防いだりしてますが、床下断熱では対策は厳しいのでしょうか?

ご指摘の内容を要約すると、基礎内にカビが生えている状態であっても、レンジフード等を使用することでカビの胞子が室内に貫流することがあり、それによってカビの胞子が増えてしまうことは明らかであるにもかかわらず、「基礎内のカビは放置しても問題ない」と断言している私の記事に疑問を感じられたものと理解いたしました。

これは、当然の疑問と思いますし、そもそも前回、前々回の記事ではレンジフードを使用することで基礎内の空気を室内に引き込んでしまい、それが元でキッチンカウンターの下にカビが生じている、という問題を指摘していながら、その基礎内にカビが生えても問題ないということに納得がいかないのは当然のことと思います。

しかし、この点については、「問題ない」と断言して良いと考えています。

室外に比べて室内のカビ胞子数は約半分

このことを理解するには、まず前提としてカビの胞子は屋外においても、室内においても存在するものであることを理解しておくことが必要です。

定量的な説明は後で行いますが、一般的に、住宅の室内に比べて室外のカビの胞子濃度は約2倍であるとされています。すなわち、カビが室内に繁殖していないお宅では、室内の方がカビの胞子が室外に比べて半分程度の状態にあります。

アレルギーの程度によって、室外に出たら直ちにカビのアレルゲンに反応するような重度のカビアレルギーの方にとっては室内への僅かなカビの流入も大きな問題になる可能性がありますが、そのような疾患をお持ちの場合は、そもそも住宅内で会ってもカビアレルギーによる症状が出ていると想定されるため、ここではそのような重篤なカビアレルギーの方向けの住宅の在り方については別の議論を要すると考えています。

ここで想定するのは、屋外においても問題なく活動できるけれど、カビが多く生えているような環境に晒されたとき、くしゃみや鼻水等のカビアレルギーの症状が出てしまうと言うような一般的なカビアレルギーの方を想定して考えます。また、子どもが大量のアレルゲンにさらされることで新たにカビアレルギーを発症してしまうようなケースも想定します。

現時点では住宅内のカビの浮遊量に関する国等による基準はありませんが、外気と同程度水準以下にカビの胞子数を抑える、という目標値を定めることができ、カビ胞子数を議論できる状態になります。

そして、後で示す計算の結果から仮に基礎内にカビが充満したような状態であったとしても、気密漏れカ所からの漏気によって室内に侵入するカビ胞子が室内のカビ濃度を室外よりも上昇させるようなことはなく、十分なカビ濃度に関する安全は担保されるという結論になりました。

以下ではもう少し定量的に説明をさせていただきます。

室内カビ濃度に関する公的基準値は存在しない

室内にカビがあるとアレルギーを発症してしまうのではないかと不安に感じられる方も多いと思います。

室内のカビ濃度について公式な基準値があると議論が容易なのですが、残念ながら、建築基準法など公的な基準に室内のカビについての基準値というものはありません。

ただ、公式な基準ではありませんが、日本建築学会が定める学会規準は存在しており、「室内カビ濃度を1000cfu/㎥以下にする」という指針が示されています。もう一つ「濃度が1000cfu/㎥以上の場合は屋外濃度に対する室内濃度の比率を2以下にする」となっています。後者の規準は今回のケースではあまり関係がないため置いて置くと、規準としては「室内カビ濃度を1000cfu/㎥以下にする」という規準が重要になってきます。

ここでcfuという聞き慣れない単位は、細菌などを数える際の単位で「コロニーフォーミングユニット」と読みます

国内の論文等によれば、空気中のカビ濃度が1000cfu/㎥を超えると住宅と子どものアレルギー疾患率に相関が見られるとされています。

一般的な住宅のカビ濃度は30~2000cfu/㎥の範囲にあるとされています。室内の壁に結露などが生じてカビが繁殖した住宅では1万cfu/㎥程度に上昇します。

また、室内のカビ濃度は屋外に比べて約半分程度であるとされています。

これらの知見から、今回の基礎内のカビが室内のカビ濃度に与える影響を検討してみます。

室内に侵入してくるカビの量

前々回の記事で、レンジフードを使用した場合キッチンカウンター下の配管の隙間を通じて基礎内の空気が室内に引き込まれてしまう事象を説明させていただきました。

せいたんママさんが感じられた疑問はまさにこの点にあろうかと思います。

レンジフードを使用することで気密測定では測定が困難な僅かな隙間からでもキッチンカウンターの下という非常に狭い空間をカビさせるのに十分な水分が供給されてしまい、結果的に高湿環境+カビ胞子によってキッチンカウンター下にカビが生じます。

この際、基礎内にカビが多く発生した状態ではカビ胞子も室内に引き込まれます。

ここでは、基礎内に大量のカビが発生してしまい通常の室内環境ではあり得ないカビ濃度になってしまっているという極端な状況として、基礎内のカビ胞子濃度は10万cfu/㎥に達していると仮定します。

また、レンジフードを使用した際に、3㎠の僅かなコーキングの隙間や基礎に通じるコンセントの隙間からカビ胞子を多く含んだ空気が室内に流れ込んでくることを想定します。

この時、隙間からは秒速50cmの勢い(人間がフーとはく息と同じ程度)で基礎内の空気が引き込まれていると仮定します。これらの仮定はかなり悪い方に大きく仮定しています

すると、「3㎠×50cm/s×2時間 = 150立方センチ=0.015㎥」 の空気が室内に侵入してくると言えます。カビの濃度は10万cuf/㎥と仮定していますから、室内に侵入してくるカビの量は1500cfuとなります。

1500cfuのカビの侵入が室内カビ濃度に与える影響

1500cfuのカビが室内に侵入してくることで室内のカビ濃度はどの程度の影響を受けるかを計算します。

ここでは住宅の延べ床面積100㎡程度の住宅を想定すると、室内の空気の体積は

一条工務店の住宅に関しては、ロスガードが稼働している環境では室内の空気は2時間で全ての空気が入れ替わります。100㎡のお宅の室内の空気量は約250立方メートルとなります。

室内のカビ濃度上昇は、1500cfuのカビが侵入したことで、1500cfu/250㎥=6cfu/㎥となります。

室内にカビなどが生えていない環境であれば、室内のカビ濃度は概ね100cfu/㎥程度と考えられます。この時、室外のカビ濃度は倍の200cfu/㎥ていどとなっています。

レンジフードの利用によって、カビ濃度が上昇しても室内のカビ濃度は106cfu/㎥程度に過ぎず、室外に比べて十分に低いカビ濃度となります。

これらのことから、室外でカビアレルギーが発生しない人であれば、基礎内にカビが発生していたとしてもカビアレルギーの発症リスクを上昇させることはないと言えます。

上記の想定では、ロスガードによる換気を考慮して折らず、また、基礎内のカビ濃度を10万cfu/㎥とかなり高濃度に想定していますが、それでも室内のカビ濃度は6%しか上昇しませんでした。

これは室内と室外のカビ濃度の違いを考慮にいれれば、全く問題のないカビ濃度の上昇と言えます^^

いやいや、僅かであってもカビ濃度が上昇するのは耐えられない、という方もいらっしゃると思います。気持ちの上では当然のことと思いますが、基礎内のからの空気の引き込みによるカビ濃度の上昇は、例えば窓を開けてしまえばカビ濃度が室内よりも高い室外の空気が入り込み一瞬で上昇する程度のカビ濃度の上昇であり、玄関を開け閉めしただけでもこの程度のカビ濃度は上昇します。

このように考えれば、カビが嫌だという気持ちは当然であったとしても、玄関も窓も一切開けない環境はあり得ないことを考えれば、健康上のリスクはない、と考えて良いと思っています。

一条工務店の換気システムと気密性能、床下断熱という状況を踏まえると、かなり慎重な計算であっても、基礎内のカビが室内環境に与える影響は十分に小さく、健康に影響を与えることはないと言えるかと思います^^

基礎断熱の住宅と同じような対応はできないのか?

せいたんママさんからのご指摘の最後に「基礎断熱と同じように床下換気システムなどを導入して対策ができないのか?」という疑問が示されていました。

これについては、技術的には全く問題なくできると考えています。しかし、それをする意味があるかどうかと言うと、メリットはなく、コストだけを上昇させてしまうためすべきではないと考えます。

本文中でも説明したように基礎断熱では、基礎内の空気は室内にそのまま入り込んできます。そのため、基礎内でカビを発生させないことで居住者の健康上のリスクを軽減することができます。というか、基礎断熱工法では基礎内のカビ対策は必須です。

一方で、床下断熱の住宅でも基礎内に強制換気システムを設けるなどすることで基礎内のカビ発生を抑制することはできます。しかし、そのためには新たな換気システムを設置することになり、住宅のコストを上昇させます。住宅コストが上昇しても居住者の健康上のリスクが低減できるならば採用の価値がありますが、上記の計算で示した様に、床下断熱の場合は仮に基礎内がカビだらけのような状態になっていたとしても、カビ発生が居住者の健康を向上させることはありません。気持ちの上ではカビが生えなくて安心できるという側面もあろうかと思いますが、それ以外になんらメリットのない装置をあえて基礎内に設置することはあまり意味があることとは思えません。

もちろん、心情的にはカビなどない方が良いので今後の基礎の工法を変更するなどして、対策は行って欲しいと思いますが、カビ対策のために追加的なコストが生じてしまう対策は、居住者にとってコスト上昇というデメリットしか生じさせないため、あまり良い対策ではないように思います^^