防蟻剤の歴史=使用と禁止の歴史

こんばんは。さすけです\(^o^)/

先日一条工務店が防蟻処理に使用している、ニッソーコートがネオニコチノイド系農薬であり、日経新聞で「低濃度で人間に影響の懸念」という記事が掲載されていた話を書きました。

多くの方が、「怖い」という感想を持たれた様子でしたので記事の補足をさせていただきたいと思います。

先日の記事にも書きましたが、現時点では「懸念が強い」ことがわかっただけで、人間に対して影響があることが明らかになったわけではありません。

それでも、懸念がある以上禁止をすべきだという考えを持たれる方がいらっしゃるかもしれません。

ただ、一つ、防蟻剤について今回はネオニコチノイドの話でしたが、別にネオニコチノイドだけが顕著に悪いわけではないのです。というか、ほぼ全ての防蟻剤は健康に対して悪影響を与える懸念があるのです。

じゃあ、防蟻剤なんて使うべきではない、という考えも一つとは思いますが、そう簡単な話でもないことは想像がつくかと思います。

このことを理解するには、防蟻剤の歴史について少し知っておくことで、今後同種のニュースがあった場合に判断のお役に立つかと思いますので書かせていただきます。

昔の家は今の家より安全だったのか?

今回、ネオニコチノイド系農薬防蟻剤が人体、特に胎児、乳児の脳発達に影響を与える懸念が指摘されたというニュースを見て、色々と調べていて気になってきたことがありました。

それは、「ネオニコチノイド系防蟻剤」は以前の防蟻剤に比べて危険なのか?ということです。

ネオニコチノイド系農薬というのは比較的新しい化学物質です。
その多くが、1980年台、1990年台に開発され、国内で農薬として認可されたのが2000年ころになります。

すなわち、今家を建てる年代の方が子供時代を過ごした「家」では使われていなかった化学物質と言うことになります。

だからこそ危険なんじゃないか!

自分たちはそんなよく分かりもしない化学物質にさらされなかったからこそ、健康に成長できたんじゃないか!

と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、本当にそうだったのでしょうか?

すなわち、昔の家で使われていた防蟻の方法は今の家よりも安全だったのだろうか?という疑問が沸いてきます。

昔の防蟻処理

そこで、戦後の日本における防蟻処理の歴史を調べてみました。

亜ヒ酸、クレオソート油、クロム銅砒素化合物

1960年代ころに防蟻処理を行う場合は、広く「亜ヒ酸」や「クレオソート油」が使われていました。

亜ヒ酸は和歌山毒物カレー事件で問題になった化学物質で、人体に対して猛毒です。使用された亜ヒ酸は被告の夫が経営していたシロアリ駆除会社で使用していたものでした。

クレオソート油はコールタールを原料として作られ、200種類以上の化学物質の混合物です。その中には発癌物質を始めとした多くの有害化学物質が混ざっていました。

また、当時アメリカから輸入されていた2×4住宅などでは、「クロム銅ヒ素系木材保存剤(CCA)」による防腐防蟻処理が行われていました。CCA自体は人体に対して極めて有毒であり、発癌物質です。当初はCCAは木材と強力に結合するため、人体に影響を及ぼすことはないとされていました。しかし、実際には雨によって、六価クロムや砒素が流出し周辺土壌の汚染、人体への慢性毒性の「懸念」が高まり、1990年代後半には自主的な規制の動きにより国内での使用は減少しました。また、その後2001年にはEUにおいて使用規制の提案があり、そこで業界団体との摩擦があったことはニュースにもなりましたので記憶にある方がいらっしゃるかもしれません。

日本ではCCA自体への規制はないようですが、1990年代中頃に水質汚濁防止法が強化され、CCAの生産が困難なため国内で使用されることはなくなっています。

クレオソート油は現在でもホームセンターで販売されていますが、これは2004年に法改正された「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」の法改正によって、特に有害な化
学物質3種をできる限り除去したものに改良されています。

 

DDT

DDTは防蟻とは少し違いますが、シロアリ駆除の歴史をひもとく上で忘れてはならない化学物質です。
DDTは防蟻というよりはシロアリ駆除剤として多く使用された殺虫剤です。

DDTって何?という方も

こんな写真はご覧になったことがあるのではないでしょうか?

戦後、進駐軍によってノミやダニの駆除剤として人体に直接散布されたりしていました。
また、稲作など農作物に散布する農薬としても大量に使用されていました。

ちょっと話がそれますが、このDDTは、20世紀後半から現在に至るまでの科学のあり方に大きな影響を及ぼした化学物質です。というか、科学のあり方の根幹を示すきっかけになり、人類そのものの考え方の転換のきっかけとなった化学物質と言っても過言ではありません。

DDTは1938年に殺虫剤としての効果が発見され、これを発見したパウル・ヘルマン・ミュラー1948年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

DDTの発見は画期的なものでした。従来の殺虫剤とは異なり、人間などのほ乳類にはほとんど毒性がなく、それにも関わらず少量で有害なノミやダニといった昆虫類への殺虫能力が極めて高かったためです。

当時は第二次世界大戦終了まっただ中です。戦後、敗戦国は貧困に陥り、腸チフスやマラリアと言った昆虫を媒介とした疫病が発生するのが当たり前でした。しかし、そのような疫病の発生はただでさえ敗戦によって不安定になった国家に大打撃を与えます。そこで、米軍などの戦勝国は敗戦国に進駐した際、DDTを大量散布しました。その結果、占領地における腸チフスやマラリアの蔓延を防ぐことに成功したのです。

スリランカでは1948年から1962年まで定期的なDDT散布が行われた結果、散布前には毎年250万人が罹患していたマラリアの発生が、1962年にはたった31人になっていたのです。

しかし、このDDTにも問題があることが明らかになってきました。
DDTは自然界で分解されにくく、散布されたDDTは環境中に残存することがわかってきました。

そして、DDTは昆虫を食べる鳥や魚類に蓄積されることもわかってきました。また、その鳥や魚を食べる人間にも蓄積されていくことがわかってきたのです。

そのことを指摘したのが、生物学者であり作家でもあったレイチェルカーソンの「沈黙の春」という1冊の本です。

レイチェル・カーソンはDDTを名指しこそしませんでしたが、農薬の散布によって、化学物質が食物連鎖の上位に位置する生物に蓄積され、鳥や魚類を死に至らしめることを指摘しました。正しくは、DDTが蓄積された鳥類は産卵した卵の殻が薄くなるなどの異常が発生し、雛が育たなくなり鳥類の激減に繋がりました。

レイチェルカーソンはそれを、鳥たちがさえずることのない「沈黙の春」と表現しました。この本は世界的なベストセラーとなり、直接の名指しではありませんでしたがDDTはその矢面に立つことになり、世界的な禁止の流れができあがりました。

日本では1968年に農薬会社が自主的に生産を中止し、1971年には販売が禁止されました。

「沈黙の春」は多くの科学者に環境問題を考えるきっかけを与えました。

この本は私達人類が単独では成立することができない生物の1種であり、「環境」というものを意識しなくてはならないということを多くの人々、そしてそれまで「環境を制する」ことを考えてきた科学者や政策担当者に警鐘をならし、思考の大転換を果たすきっかけになったのです。

この問題をきっかけに、1972年には環境問題についての大規模な政府間会合「国連環境人間会議」が開催されました。

現在、私達はそれを積極的に実践するかは別として「環境問題」というものを常に意識すべきだという共通認識を有していると思いますが、その礎のきっかけになったのがこのDDTだったのです。

少し話がそれすぎました。。。。色々思い入れもあるのでご容赦を^^;
理科好き少年で小さい頃から科学者になりたかった私には、高校時代に出会ったこの本はちょっとした衝撃だったのですよ。。。

実はこの話には続きがあって、2006年に国連保険機関(WHO)が発展途上国におけるマラリア対策として
DDTの室内への残留噴霧を推奨する方針を示しました。先に例示したスリランカの例では、DDTの使用禁止後5年でマラリア罹患者は250万人に戻ってしまいました。
低コストのDDTに変わる殺虫剤がないため、DDTの禁止は途上国に住む多くの人々をマラリアに罹患させるきっかけになってしまったのです。一説にはDDTの禁止によって失われた命は1億人にも達するという推計もあります。

このことは、化学物質が「危険」という理由だけで完全に禁止にすることは必ずしも最良の選択では無いと言うことも示したのです。私達は化学物質を使用or禁止の二択ではなく、リスクを踏まえてうまくつきあっていくという選択をしなくてはならないのだと思います。

あ、また話がそれてしまいました。。。戻ります。

クロルデン

1950年代から1980年代中盤までは、クロルデンという有機塩素系殺虫剤も防蟻剤として広く使われていました。

このクロルデンは毒性が高く、その毒性の高さから1968年には農薬としての使用が禁止されました。しかし、その後も防蟻剤としては使用がされつづけ、井戸水や河川の環境汚染を引き起こしました。環境汚染による人体への影響懸念から1986年になってあらゆる用途での製造・使用・販売が禁止されました。

クロルピリホス

次々と過去の防蟻剤の使用が禁止されていく中で、クロルデン禁止に変わって1980年代後半から1990年代に防蟻剤の主流となったのがクロルピリホスという有機リン系殺虫剤でした。

しかし、1990年代後半当たりからシックハウス症候群という新しい問題が生じました。1980年頃からシックハウス症候群の症例は報告されていたようですが、当初は原因不明または、新居に住んだことによる心身症などと診断されていたそうです。

その後、科学的調査み、シックハウス症候群の原因物質がホルムアルデヒドとクロルピリホスであるということが明らかになってきました(現在は多数の原因物質が判明しています)。

結果として2003年には、クロルピリホスは建築基準法で住宅への使用が禁止されました。

ここで、少し疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。
クレオソート油のような揮発溶媒を多く含んだ化学物質がなぜシックハウス症候群を引き起こさなかったのか?ということです。

その答えは、科学的性質以外の所にあります。。。それは、住宅の高気密化です。
古い木造建築は隙間が多く、室内空気は自然に循環していました。その結果、シックハウス症候群の原因物質を多量に使っていても室内にそれら化学物質が対流することなく外に出て行ってしまったため問題になりにくかったのです。

しかし、多くの人々が「暖かい家」を求めるようになり、住宅が高気密化した結果、微量の化学物質で健康を害するシックハウス症候群が生じるようになってしまったのです。

そして現在へ

ここまで、過去に防蟻剤として使用されてきた化学物質の歴史を見てきました。

2000年代から現在に至るまで、防蟻剤の主流はピレスロイド系農薬に移行してきました。

ピレスロイド系農薬は、除虫菊に含まれる有効成分で、ほ乳類に対する安全性が高いとされ、一条工務店の家でも部分的にピレスロイド系農薬であるコシペレット、コシシート、コシシーラー、アリピレスといった防蟻剤を使用していますます。

現在、ピレスロイド系農薬は住友林業など多くのハウスメーカーで防蟻剤として採用されており、されています。

しかし、このピレスロイド系農薬も「本当に絶対安全か?」と問われれば答えは「わからない」になります。

ピレスロイド系農薬については胎児の脳への影響などについて、現在研究が進行中のようです。

では、一条工務店が良く言っているACQは?と言われればこれまた「わかりません」。。。ということになります。

ただ、ACQはピレスロイド系などに比べると、その作用の仕方から、人体への直接的影響は低いであろうとは思います。

聞いたわけでもないので、これは推測ですが一条工務店がACQを採用しているのもこのあたりがあるのだと思いますが、ピレスロイド系はいずれ何らかの規制の対象になる可能性が高く、その点から考えると健康への影響の低いと思われるACQに移行してきた、というのも一つの理由ではないかと思います。

ただ、ACQにも欠点がないかというと、そんなことはなくて、ACQには金属を腐食させやすいという問題が指摘されています。そのため、アメリカなどではACQからMCQという薬剤に移行しつつあります(日本国内ではMCQは農薬として認可されていないため使用できません)。

いずれ、日本でMCQが使用できるようになってくればそちらに移行していくことになるのだと思います。

じゃあACQやMCQなら健康上の問題は絶対無さそうだね!!

 

はい。合想像の通りそういうわけでもないのです。。。。

現在、EUなどでナノマテリアル規制についての検討が進んでいます。

ナノマテリアルとは1億分の1サイズの物質のことですが、このようなナノマテリアルが従来とはまったく異なる形で人体や生物に対して影響を与えるのではないかという懸念があり、予防原則的な見地に立って国際的に規制を検討する方向で動き出しています。で、ACQやMCQというのはそのナノマテリアルの候補物質に挙がっていたりするのです。。。

現時点では、サイエンスコミッティー(国際的科学者主体の委員会のようなもの)ベースではありますが、ACQやMCQが健康に影響を与える可能性のある物質として研究対象の候補に挙がっているのです。。。よって、将来的には「健康に影響を与える懸念がある」ということになる可能性は否定できません(;__;)

じゃあ、ネオニコチノイド系なら、ネオニコチノイド系農薬なら大丈夫だよね!!!
と思っていたら、先日のニュースです。。。。

ここまで読んでくださった方がいらっしゃるかわからないですが・・・

もうね。化学物質で「絶対に安全です」なんて言える物質は「絶対にない」のです。。。
逆に「絶対に安全です」なんていう人がいたらそれは知らないだけなのです。。。。

じゃあどうすれば良いの???

上記を読んできて、じゃあいったいどうすれば良いんだ??もうシロアリを受け入れて共生していくしかないのか?と思う方もいらっしゃるかもしれません。

でも、冷静になって考えたとき、それはやっぱりDDTと同じ過ちを犯すことになりかねないのだと思うのです。「危ない=禁止」ではなく、私達は理解した上で化学物質と共生していくしかないのだと思うのです。

そして、これまでの歴史を振り返ってくるとわかってくることがあるのです。

それは、世の中はより安全になっているということです。

何が安全だ!!馬鹿じゃないか!!これだけ危険な化学物質に囲まれて安全になんてなっているわけないじゃないか!!

とは考えないでください。だって、亜ヒ酸なんて子供がなめたらすぐに死んでしまいます。。。妊婦とか関係ないです。六価クロムなんて私は絶対に触れたくありません。

昔のクレオソート油なんて、有害化学物質の混合液です。こんなものを現在の住宅に塗ったらそれこそシックハウスになりまくりです。。。。

それに比べれば、ピレスロイドもACQもネオニコチノイドも遥かに「まし」です。

ですから、「(何かの化学物質)が人間の健康に影響を与えることがわかった」といっても、「ハイハイわかりました。次の化学物質に移行しましょうね」くらいのつもりでいれば良いのではないかとおもうのです。

現在、規制の対象となっている化学物質の多くは、「その化学物質に対して不安を抱き続けて生活することの方が大きな健康影響になってしまう」程度に影響は軽微なことがほとんどです。

少なくとも、1970年代に建築された住宅で生まれて、育ってきた私は健康です。。。。
多くの皆さんもそうだと思います。

一方、当時の住宅に使われてきた化学物質の影響で健康を害された方もたくさんいるのも事実です。だからこそ、化学物質を進化させてきたのだと思うのです。

そして、これからも進化し続けて行くのです。その進化の過程では様々な問題に直面し、それを解決していくしかないのだと思います。

次回で最後にしますが、じゃあどうやって化学物質と共生していくべきなのかについてつらつらと書かせていただきます\(^o^)/

それが終わったら、また家のことを書きますね^^