こんばんは。さすけです。
ちょうど1年ほど前、
[kanren postid=”13765″]という記事で、一条工務店が標準壁クロスと利用していたサンゲツEBクロスにおいて、その製造元である大日本印刷の製造工程管理のミスによって大規模なクレームが発生していることを書かせていただきました。
この不具合は依然として大日本印刷からはリコール等は行われておらず、また公式にも何らの発表がなされていません。しかし、昨年時点で350億円規模だった損害額は、2017年11月の中間決算でさらに535億円の特別損失を計上しました。
大日本印刷の特別損失計上は今回で3度目になり、2016年3月期決算で76億円、2017年3月期決算の377億円を特損計上しており、三度目の今回で壁紙補修費用としての特別損失計上累計額は988億円に達しています。その結果、株価は壁紙不具合に伴う特損計上発表から1週間で10%以上も下がり、時価総額にして1000億円以上が吹き飛んでしまいました。
このような状況に至ってもなお、大日本印刷は株主や投資家には最低限の説明を行うものの、実際に壁紙の不具合に困っている多くの消費者に対しては直接の情報開示を一切していません。
また、販売元のサンゲツ、製造元の大日本印刷からは何らの発表が行われていませんが、日本経済新聞「大日本印刷、好調有機EL悩ます「壁紙」の誤算 」(2017年11月15日付電子版記事)、ロイター「大日印が売り気配、特損計上で9月中間期は最終赤字に転落」(2017年11月10日)などで報道されるに至っており、本来であれば株価上昇局面にあるはずの大日本印刷の株価が大きく下落するという市場からの評価を受けるに至っています。
日経の報道によれば、大日本印刷IR室は「原因は特定できており、今回の特損計上で最後だ」と説明していますが、市場から「またか」と表現されるように信頼を失うに至っています。
大日本印刷はこの壁紙の不具合を一貫して「一部の壁紙に生じた不具合」と表現し、「人体に影響がない」としてきています。
ここで、大日本印刷が「これ以上の損失拡大はない」とする大前提は「安全性には影響がない」ということにあります。しかし、今回ここで紹介をさせていただく内容は「安全性に影響(健康被害を引き起こす)の可能性」を指摘するものとなります。
もしも安全性に影響するならば、損失の拡大はさらに広がることは避けられないように思います。
ただ、このブログは所詮は個人ブログに過ぎませんから、書いてある内容に疑念を持つのは当然のことです。できる限りエビデンスを示しながら書かせていただくと同時に、写真等を使ってなぜ安全性に対する疑問が指摘できるかを説明させていただきます。
そして、今回の指摘によって、居住者への最終的な責任を有するハウスメーカー、そして株主やそのたステークホルダーに対する責任を有する新聞等のメディアが、大日本印刷の「安全性に問題はない」とする『発表』を鵜呑みにするのではなく、自分たちで安全性に影響があるのかないのかを検証して欲しいと願っています。
また、大日本印刷には株主の方だけを向いた発表ではなく、大日本印刷製EBクロスによって真に困っている多くの消費者に対して適切なアナウンスをして欲しいと思っています。
- 1 大日本印刷EBクロスの不具合による健康被害の可能性事例
- 2 大日本印刷がEBクロスの不具合による「安全性=健康」に影響はないとする根拠
- 3 大日本印刷・サンゲツが「健康被害はない」とする資料は安全性を証明できているか?
- 4 大日本印刷の試験は健康被害がないことは証明していない
- 5 EBクロスの粉塵は空気中に飛散しない?根拠なき「安全」の主張
- 5.1 粉塵にならなければ喘息の原因にはならない
- 5.2 大日本印刷製EBクロスが剥離した粉末はどのようなものなのか?
- 5.3 大日本印刷製EBクロスの粉末実サンプル顕微鏡測定
- 5.4 顕微鏡で測定した結果粒径は数μm~500μm程度
- 5.5 空気中を飛散する粒子~黄砂、ダニのフン、花粉~
- 5.6 花粉、ダニのフン、黄砂と同程度の大きさでも飛散しないの?
- 5.7 飛散したクロスの破片の室内滞留時間
- 5.8 吸入されたEBクロスは喘息等を悪化させる原因となり得るか?PM2.5、PM10は呼吸器疾患を引き起こす。
- 5.9 発症メカニズムが分からなければ大日本印刷・サンゲツに責任はない?~アスベストさえメカニズムは明らかになっていない~
- 6 大日本印刷は「人体に影響がない」ことを示せていない
- 7 EBクロスの不具合に気が付いたらどうすれば良いのか?
- 8 株主の方が気にしそうなこと
- 9 終わりに:情報の公開をすべきでは?
大日本印刷EBクロスの不具合による健康被害の可能性事例
大日本印刷製EBクロスの不具合と健康被害の関連性指摘(安全性への疑問発端)
ここでは、大日本印刷製EBクロスの不具合に起因する健康被害を訴えられている方を仮にAさんとさせていただきます。
Aさんは、Aさんご夫妻と2014年に生まれたお子さんの3人家族となっています。
Aさんご家族は、2016年6月に2歳になるお子さんも含めて賃貸物件に引っ越しをされました。しかし、引っ越しをされた後の2016年8月以降、お子さんに喘息の症状があらわれはじめ、引っ越しから半年が経過した2017年1月には気管支喘息の発作のため、入院を余儀なくされました。その後、4月、5月、7月、9月と約2ヶ月おきに計5回もの入院を要する程の発作を発症しました。喘息発作に際しては、2歳の子どもにとっては負担で有り、副作用も懸念されるステロイドパルス治療を余儀なくされました。
また、引っ越し以降、蕁麻疹の頻度が増加し、抗アレルギー薬内服もされています。
お子さんだけではなく、Aさんご自身、そしてお子さんは複数回の結膜炎も発症しているとの話を受けました。
賃貸物件の壁紙に使われていた大日本印刷製EBクロス
Aさんが引っ越しをされた賃貸物件で使用されていた壁紙は不具合のある大日本印刷製EBクロスでした。
壁紙の現象は、大日本印刷製EBクロスの不具合例そのものですので、これが不具合のある大日本印刷製EBクロスであることは疑う余地はありません。また、大日本印刷も不具合のある壁紙であることは認めています。
喘息発作とEBクロスの因果関係、健康被害の原因はEBクロスか?
ここで、当然の疑問として、「Aさんのお子さんの喘息等の症状は壁クロスの不具合が原因である」と言えるのか?と言う疑問が生じます。
小児喘息は決して希な病気ではありません。環境省が2008年に3歳児89490人を対象として行った、大規模な疫学調査では、3歳児時点で喘息発作の有症率(喘息の症状があった子ども)は概ね3%前後となっています。
(出典:平成20年度 大気汚染に係る環境保健サーベイランス調査結果について)
そのためAさんのお子さんが喘息症状を発症したことは、偶然または壁クロスの不具合によるもの以外の環境要因に起因したものである可能性は否定できません。
私自身、Aさんから最初にお問い合わせをいただいた段階では喘息発作や蕁麻疹、結膜炎の多数回の発症等、お子さんとAさんご夫妻にとって非常に大変なことではあるけれど、病気が大日本印刷製EBクロスの不具合によって生じた粉塵が原因である、と結論づけることはできない旨を伝えさせていただきました。そして、原因について、まずは医師の診断書を取ることを勧めました。
医師は何らかの病気の症状がある場合、診断書を書いてくれます。しかし、医師が原因にまで踏み込んで診断書を書いてくれる可能性は低いことも伝えました。なぜならば、医師は症状については診断できますが、その医師が専門家として原因に十分な疑いを持っていない限り、医師の名前を署名捺印した診断書にその原因まで踏み込んだことを書くことは、医者としてのリスクにもなり得る行為であり難しいと考えたためです。
しかし、まずは、医者というプロの視点で見たときに、大日本印刷製EBクロスがAさんのお子さんに生じている病気の要因となる可能性があるのか、ないのかをはっきりさせておくことが必要と考えました。
医師による診断~EBクロスの不具合が喘息発作・蕁麻疹を引き起こし憎悪させている可能性がある~
お伝えしてすぐに、お子さんが生まれてからお子さんの健康を見てきたかかりつけの医師に診断書を出してもらった旨の連絡をいただきました。下がその診断書になります(個人名や病院名を私の手でモザイク処理してあります)。
診断書には
「2016年8月までは何らのアレルギー疾患の発症なく経過しており、現在の自宅の壁紙など環境要因が喘息発作・蕁麻疹を引き起こし憎悪させている可能性がある」
と記載されています。
ここで言う、「自宅の壁紙」とはAさんが医師に相談をする際にその不具合の存在を伝えていることから「不具合のある大日本印刷製EBクロス」を指しているととらえて間違いありません。
これを見て、「可能性の指摘に過ぎない」と思われるかもしれませんが、個人的にはここまで踏み込んだ診断書が出てくることは想定外でした。
もしも、医師が大日本印刷が言っているように「壁紙の不具合が健康被害を生じさせることはない」という意見を取り入れるならば、自宅の壁紙などが喘息発作等を引き起こしている要因である可能性を指摘することはしないはずです。
しかし、実際には医師の診断として、「自宅の壁紙(大日本印刷製EBクロス)」が喘息発作等を引き起こしている可能性がある、と診断されました。
1人の医者の見解に過ぎないではないか
医師と言っても、人間ですから人それぞれ考え方や知識にもばらつきがあります。また診断書の書き方も性格的な違いが反映されることは十分に考えられます。
また、決して差別をするわけではありませんが、個人開業医と大学病院のような大規模病院とでは医師の診断書の踏み込み方も変わってくることは容易に想像が付きます。
個人病院であれば、かかりつけとして来てもらっている患者であるAさんは、ある意味大切な「お客さん」でもあると言えます。そうであれば、お客さんの気持ちを考慮して、踏み込んだ少し診断書を書くという「サービス」をしている可能性も考慮に入れる必要があります(私自身もこれを懸念しました)。
しかし、上記の診断書は、病床数5000床規模の国内有数の医療グループが営み、単独病院としてみても病床数300床~400床規模の地域の基幹病院の小児科の長が下した診断となっています。この点は決して無視することはできないと考えています。病床数規模については、国内最大規模に近い東大病院、東北大病院、九州大学病院などで1000床程度ですから、その半分弱の規模となります。
そのため、個人病院のように「顧客サービス」ということはまず考えられず、医師としての客観的な視点で見たときに「壁紙に問題がある可能性がある」という指摘をしたと言えそうです。
診断書は本当に「不具合のある壁紙」を指しているのか?
診断書の中には「現在の自宅の壁紙など」としか書かれておらず、大日本印刷製EBクロスの不具合を指しているのか、一般的な壁紙を指しているのかは不明に見えます。
Aさんは医師に自宅の壁紙で不具合が生じており、壁紙から粉末上の物質が振っている状況などを説明した結果として上記の診断書を受けているため、診断書に記載されている「自宅の壁紙」とは不具合の出ている大日本印刷製EBクロスを指していると考えるのが合理的です。
また、この診断書については大日本印刷にも示されており、大日本印刷の担当者は「医師に直接説明したい」と申し出てきたことからも大日本印刷としても上記診断書の「自宅の壁紙」が不具合の出ているEBクロスからの粉塵を想定したものであると考えたため、この点については見解は一致しているように思います。
しかし、そうは言ってもたった1人の医師の診断書で、大日本印刷が「安全性」を主張する根拠を崩すことはできないのではないか?と考えられるのは当然です。
ただ、現状の大日本印刷が主張するEBクロスの「安全性」についての根拠は、上記のたった1つの診断書で崩れるほどに脆弱な物なのです。。
大日本印刷がEBクロスの不具合による「安全性=健康」に影響はないとする根拠
大日本印刷はなにをもって「安全性」を主張しているのか?
大日本印刷は、EBクロスの不具合を生じさせた消費者ではなく、自社の顧客であるハウスメーカー、工務店等、実際にEBクロスを買ってくれた「大日本印刷のお客さん」に対して、EBクロスの不具合を一般に広く公表しリコールしない理由を述べた資料を送付しています。
そして、その資料には「脆化した製品が人体に悪影響を及ぼすものではないことが確認されている」と明記した上で、大日本印刷がEBクロスの不具合が健康に被害を及ぼさない理由として2つの根拠を挙げています。
① 外部試験機関で安全性に関する7項目の試験を実施している
② EBクロスの脆化事象による健康被害の報告は、一切受けていない
大日本印刷はこの2つの理由を持って「健康被害はない」と断定しています。本当にこの2つの根拠しか挙げていないのです。。。
また、この「健康被害がない」ということを前提として消費者庁や経済産業省製品安全化に問い合わせを行った結果、「消費者生活用品安全法」に基づく報告(リコール等)などは不要、と判断されたので公表しないこととしたとしています。
リコールをしないのも「健康被害が出ていない」から
多くの方から、大日本印刷はなぜリコールをしないのか?というお話をお聞きします。
大日本印刷は、消費者庁及び経済産業省製品安全課に公表やリコールの必要性について問い合わせた結果、「適切な消費者保護をすればリコールは不要」、と回答されたので公表やリコールをしないこととした、と説明しています。
そう聞くと消費者庁や経産省がグルになって、隠蔽をしようとしているのでは?などと思ってしまいますが、実際には違います。
おそらくは大日本印刷は、消費者庁や経産省に問い合わせることで「リコールは不要」という回答が得られることを分かった上で、リコールしないことに対するお墨付きを得るために問い合わせしたのではないかと思っています。
なぜならば、大日本印刷は「健康に影響はない」という前提に立っているためです。
リコールには自主的リコールと法的なリコールがあります。経産省等は、民間企業の自主的な活動に対して指導を行うことはできませんから、法的な基準を満たしているかどうかの判断を与える事しかできません。
そして、リコールを必要とするかどうかについては、壁紙の場合であれば消費生活用製品安全法に定めに従う必要があります。そして、経済産業省が発行する「消費者生活用品のリコールハンドブック」では、リコールは「消費者の安全性確保」のために行う措置であるとされています。そのため、大日本印刷製EBクロスに不具合があったとしても、不具合を原因とした安全性への影響、すなわち生活者の健康に影響を与えていないならばリコールは必要ないと判断せざるを得ません。そのため、関係省庁に問い合わせを行えば「リコールの必要はないが、適切な消費者保護を行うように」という回答が返ってくることはある種自明なのです。
ただし、「健康への影響が懸念された場合」はリコールの必要性について改めて議論することが必要になることもまた自明です。
安全性は誰が確認するのか?
これは「法の抜け穴」とも見られかねないことですが、「製品の安全性」を証明するのは、消費者庁や経済産業省製品安全課ではなく、事故を起こした企業が自ら行います。そのため、事故を起こした企業が「安全」と言えば、リコールの必要はなくなるのです。
Aさん宅の1例だけでも大日本印刷の「安全性」の根拠1つが否定される
ただ、今回のAさんの診断書の存在によって少なくとも②の根拠である「健康被害の報告は、一切受けていない」と言う部分は否定されます。
大日本印刷とサンゲツが文書を配布した時点では「一切報告は受けていなかった」かもしれませんが、少なくともAさんは大日本印刷にも報告済であり、個人が単に健康被害が出ていると言っているのではなく、正式な医師の診断書を持って報告をしています。よって、②については根拠が無くなったと言えます。少なくとも「1件の健康被害の事例を除いて報告はない」としなければなりません。
これに対して、大日本印刷がどう言うかも想像はつきます。それは、診断書の記載は「医師の誤解によるものであり、健康被害はない」というものです。
事実、Aさんに対応した大日本印刷の担当者は診断を下した医師への説明を行う機会を設けて欲しい旨を伝えてきました。しかし、大日本印刷が当然行うである説明である「医師の誤解に基づく診断だ」というものについては十分に検討の余地があります。
健康被害の確認は極めて困難、少なくとも個人、単独医師では不可能
大日本印刷は、おそらく今回のAさんからの指摘を受けても「健康被害は確認されていない」という立場を崩すことはないと考えています。
あくまで「可能性」が指摘されただけであって、健康被害を生じていることが「確認」されたわけではないためです。
では、仮に大日本印刷製EBクロスの不具合が健康被害を生じていると仮定したとき、どのようにすれば「確認された」となるのでしょうか?
これ、実は「確認」はほぼ不可能なのです。
リコールと言えば、自動車と食品のリコールを思い浮かべる方が多いかと思います。なぜ自動車と食品のリコールは多いのかというと、自動車であれば例えば「ブレーキが効かなくなる」という技術的な不具合が確認されたならば、即リコールとなります。なぜならば、ブレーキが効かなくなれば大事故が起こり消費者が怪我をする可能性が極めて高いためです。そして、不具合と自己の因果関係も明確です。
食品についても、例えば間違えて薬品が混入してしまったという「不具合」が生じた場合、それを食べてしまえば健康被害を生じさせることは明らかです。
いずれのケースも、「製品の不具合」と消費者の「安全性=健康」の間にが明確な因果関係があります。そのため、製品に不具合があるとすぐにリコールとなります。
しかし、大日本印刷製EBクロスについては、不具合と健康被害の因果関係を証明することは極めて困難です。
喘息、蕁麻疹、結膜炎のいずれも、EBクロスの不具合以外の要因でも発症し得る病気です。
そのため、仮に大日本印刷製EBクロスの不具合が起こっている家庭内で喘息の症状が出たとしても、それだけでは大日本印刷製EBクロスと喘息の間の因果関係が証明されたことには全くなりません。
このような因果関係を証明するためには、ランダム化比較試験による大規模な疫学調査が必須となります。
やりかたはもの凄くざっくり言ってしまえば、1万世帯の「α群:不具合のないEBクロスを用いている世帯」と1万世帯の「β群:不具合の出ているEBクロスを用いている世帯」の2群にわけて、長期間、最低5年程度、喘息やアレルギー、蕁麻疹の発症件数の比較をすることで、仮にα群では5年後の喘息発症率が8.0%であるのに対して、β群では喘息発症率が9.0%であれば、1.0%=1000人程度の人は大日本印刷製EBクロスの不具合によって喘息を生じたことを証明した、すなわち、大日本印刷製EBクロスの不具合は喘息を発症させ得る、と言う因果関係を証明したことに近い結果を得られます。
しかし、上記でもまだ「確認=因果関係の証明」と呼ぶには不十分で、喘息やアレルギーは直近40年ほどで罹患者数が大きく増加していることや、地域による有症率の違い等EBクロスの不具合以外の要因が大きく変動します。喘息などであれば毎年の気温変化の影響も受けます。これらの影響を全て除外して、因果関係を証明する、すなわち「健康被害の存在を確認する」ためには、おそらく10万人規模の長期にわたる疫学調査が必要になることは容易に想像できます。
このような大規模疫学調査は、ものすごくお金がかかります、10万人毎年1万円の謝金を支払って調査に参加してもらって、5年間調査したらそれだけで50億円です。管理費を込みで考えれば100億円はくだらない調査費用がかかります。。。ぶっちゃけこんな調査誰もやりません。
少なくとも、個人が行えるものではないのはもちろん、医師であっても単独や少数のグループ、また大学病院でも調査はほぼ不可能です。
大日本印刷が自ら行えば、できないことはないかもしれませんが、やった結果として「因果関係あり」と出てしまったらリコールをした上に、当然治療費の負担、さらには就労保証やらなんやらで、それこそ1000億円の何倍にもなるであろう費用負担が発生することになるので、当然やりません。
結果として、大日本印刷製EBクロスの不具合と健康被害の関係は実際には誰にも「確認」のしようがない、といえます。
誰にも確認できないことが明らかなものを「健康被害は確認されていない」ことを理由にして、対応をしないというのは個人的にはやはり大きな問題があるように思います。
しかし、因果関係を照明することはできませんが、「健康被害の可能性」を指摘することは個人でも可能です。
大日本印刷・サンゲツが「健康被害はない」とする資料は安全性を証明できているか?
大日本印刷が行った安全性試験は健康被害が生じないことを証明できているのか?
仮に大日本印刷が①で示した安全性に関する7項目の試験でAさんが診断を受けた2歳の子どもが入退院を繰り替えさざるを得ない程重度の喘息、蕁麻疹について、論理的に起こりえないことを説明可能な安全性試験を行っていたとするならば、医師の診断を疑うことが合理的と言えます。
そこで、具体的に大日本印刷が「人体に悪影響を及ぼすものではない」と言い切る程の「安全性に関する7項目の試験」とはどのようなものであるかが問題となります。
大日本印刷が「人体に悪影響を及ぼすものではない」と言い切る根拠としている、安全性に関する7項目の試験結果の資料を下に示します。
ここでは
- 急性経口毒性試験
- 皮膚刺激性試験
- 皮内反応試験
- 感作性試験
- 復帰突然変異試験
- 眼刺激性試験
- 急性吸入毒性試験
という7つの安全性試験が行われていることが確認できます。これは後ほど書きますが上記画像の赤で囲った部分には「検体が浮遊することは恐らく起きないであろう」という付記があり、「人体に悪影響を及ぼすものではない」と言い切るにはかなり微妙な文言が入っていることも確認できます。
大日本印刷が行った安全性試験は適切なものか?
最初に疑うのは、大日本印刷が行った試験は適切な試験方法が選択され、かつ、適切な試験機関によって行われているか?という点です。
この点は、大日本印刷の行った試験は7つの試験項目については、適切なものであると理解できます。
大日本印刷が行った試験の多くはOECD(経済協力開発機構)が示す、「OECD毒性試験ガイドライン」に基づいたものとなっています。OECD毒性試験ガイドラインは、国際的に合意された化学物質の毒性試験の方法であり、実験方法の選択は適切と言えます。また、OECD準拠でないものについても薬食機発とあり、これが厚生労働省医薬品食品局審査管理課医療機器審査管理室(漢字だらけ。。。)による通達に示された手法に基づいていることがわかります。
次に、この試験が適切に行われたかについては、実験結果の詳細を示す文書が示されていないため、確認することはできませんが、先に示した大日本印刷の資料には、第三者機関で試験を行ったことが示されており、民生科学協会、日本食品分析センター、Harlan Laboratories(現Envigo)で実施したことが示されています。これらの企業はいずれも、第三者試験機関としての必要な資格を有しており、大日本印刷が嘘を付いていない限りは適切な試験が行われたと考えてまず間違いありません。
これらのことから、1つ1つの試験の方法や管理体制には大きな問題はないと思われます。
余談ですが、大日本印刷が安全性試験を行っていた時期は遅くとも2015年9月までには行われていたことも推測できます。なぜならば、大日本印刷が第三者機関としてあげている「Harlan Laboratories」は2015年9月にEnvigoという企業に買収され、企業名もEnvigoに変更となっています。よって、遅くとも2015年9月の段階では問題を認識し、安全性試験までは行っていたことが示唆されます。ハウスメーカー等に不具合の公式なアナウンスが行われたのは2016年の中旬以降のようであるため、対応としてはやや遅いように感じます。
壁クロスは「化学物質」として毒性がないことは確からしい
大日本印刷が第三者機関に委託した試験は、基本的には大日本印刷のEBクロスが不具合を起こして剥がれた破片が「化学物質として毒性がなさそうだ」ということを示しているにすぎません。
大日本印刷が示した7項目の毒性試験は、いずれも「化学物質の急性毒性試験」としては一定程度の安全性を評価可能な試験方法を選択しています。7項目以外にも、発がん性や生殖毒性、遺伝毒性試験などは行われていませんが、おそらくどの試験をしても「毒性はない」と評価される物と推察されます。
というのも、壁紙やその接着剤が、光反応によって脆化してボロボロになったときに「毒物」に変化するとしたら、そもそもそんなものを壁紙に使って良いのか?ということになります。そのため、これら試験結果はやる前からある程度分かっていたはずです。もちろん、その可能性は否定できない以上は試験はすべきと思います。
この7項目の試験で言える事は、大日本印刷製EBクロスの不具合によって脆化した壁紙の破片が「化学物質としての毒性」を持たないことは、おそらく事実と言える、ということまでです。
しかし、「人体に影響がない」と言い切るためには、「化学物質としての毒性がない」ことは必要条件ですが十分条件ではありません。
大日本印刷の試験は健康被害がないことは証明していない
化学的毒性試験と物理特性
大日本印刷が行った安全性を示すとする試験では、化学的な毒性試験は行われていますが、物理的な特性試験は行われていません。
これは例えばですが、ある窓ガラスに不具合があり「急に割れてしまう窓ガラス」というものがあったとします。
割れて飛び散った窓ガラスに触れてもかぶれたりしないか?間違えて舐めてしまっても大丈夫か?破片に触れたら急にアレルギー症状が出たりしないか?というものを確認するのが、大日本印刷が実施した7項目の化学物質毒性試験です。
一方で、少し考えれば分かるとおり、窓ガラスが割れて飛び散ったらその破片で怪我をしてしまう、という事故が考えられます。飛び散った窓ガラスに触れても毒性はなくても、怪我をすることは当然あります。7項目の試験では、化学的な安全性は示せても、怪我をする可能性があるかどうか物理的な安全性を示すことはできないのです。
そのため、大日本印刷が示している7項目の試験では「割れた窓ガラスの安全性」を証明できたとは言えないのです。現時点で言える事は、化学的な安全性は証明されていても、物理的な形状変化によって生じる安全性は全く試験されていないと言えます。
いやいや、壁紙だから別に尖っていて危険な状態になんてなるわけないじゃないか、と思われると思います。
しかし、尖っているわけでもない壁紙の破片が粉末上になり目の中に毎日降り注いできたら、呼吸と共に日々吸い込んでいたら何が起こるでしょうか??
当然、壁紙が剥がれ落ちた粉を手で触っても怪我をすることはありませんが、目の中に毎日のように降り注いでくれば粘膜を傷つけ結膜炎を発症させる可能性が高まること、呼吸と共に毎日吸い込んでいたら喘息等を発症させるリスクが上昇するのではないかということは容易に想像できます。
今回の大日本印刷の試験では、この部分の安全性については、一切確認されていません。
この点については、重要なので大日本印刷が実施した試験についてもう少し詳しく見ていくことにします。
TG405の眼刺激性試験は結膜炎の原因になり得ないことは証明できない
いやいや、大日本印刷の7項目の試験の6番目に「眼刺激性試験」があるではないか?と思われるかも知れません。確かに、一般に眼刺激性と言った場合、上記のような物理特性も含んだ試験を行うケースもあります。
しかし、大日本印刷はOECD TG405によって試験を実施したとしています。TG405の試験では、動物実験を行うのですが、これは粉状になった壁紙の粉末が目の中に入って、眼粘膜を傷つけることを試験するものではなく、化学的な性質として眼粘膜に炎症を発生させるかどうかを試験するものとです。
TG405の試験方法は下記の通りです。
イメージとしては、壁紙の小さな断片の1つを磨砕して微粉とした状態で対象動物(アルビノウサギ)の片目の粘膜の上にそっと置き、1秒間目を静かに閉じたあと、24時間放置、その後洗浄して状態を確認するという試験です。
壁紙自体に何らかの化学的眼刺激性があれば、TG405で問題が生じますが、試験では実際に壁から剥がれ落ちてくる粉末を乳鉢などで細かくすりつぶして使用するため、実際の物理形状とは大きく異なっており、天井に張った不良の壁紙から毎日のようにクロスの粉末が降り注いでくることは全く想定していません。
そもそも、OECDのテストガイドラインは化学的な刺激の有無を調べる試験方法であって、物理的な刺激の有無を調べるものではないので当然です。
しかし、大日本印刷はこの試験を行ったことで「眼刺激性がない」としています。TG405の試験をクリアしても、結膜炎を引き起こさないことは確認されてはいないのです。
TG436にパスしたことで喘息の原因にならないことは証明できるか?
大日本印刷の資料を見ると「恐らく」という微妙な言い回しはわるものの、喘息など想定される気管支系の疾病の原因にならないかのような主張が見られます。これが事実であるかを具体的に見ていきます。
大日本印刷は急性吸入毒性試験についてはOECDガイドラインのTG436によって試験をして「安全だ」と主張しています。
TG436の試験では、試験体(今回の場合であればEBクロス)を1~4μメートルのエアロゾルと呼ばれる気体状の物質にまで細かくした上で、動物実験に用いる対象動物に4時間呼吸として吸入させて14日間経過を観察する試験です。
エアロゾル状にした物質は、それを吸い込んだとしても化学的に気管支に炎症を引き起こすなどがなければ急激に喘息を引き起こすことがない程度に小さな粉末となっています。
TG436を使うことで、対象物質が「化学的に」呼吸と共に肺に吸い込まれてしまっても安全かどうか?を試験することができます。しかし、実際の粉末(エアロゾルよりも大きい)が呼吸と共に吸い込まれたとき、喘息発作を引き起こすことがないかどうかは全く考慮されていません。
よって、大日本印刷の試験結果は、EBクロスの不具合によって剥がれ落ちた粉塵が肺に取り込まれたとして、それが化学的作用によって炎症を引き起こす可能性が低い、ということを示しているだけで、安全であることは全く証明できていません。
これはTG436の動物実験を行う期間を見ても明らかです。TG436が対象物質のエアロゾルに晒される時間は「たったの4時間」です。
しかし、EBクロスの不具合が生じた住宅にお住まいの方達は、実験動物よりも遥かに長い時間場合によっては1年単位の期間を粉塵が舞っている可能性のある室内で過ごしています。また、TG436の経過観察期間は14日間です(動物実験としては最も基本的な日数)。しかし、喘息のような症状を考えれば2週間で症状が現れるとは考えにくく、数年単位の経過観察を要するケースも当然あります。
以上のことから、大日本印刷の呼吸器の毒性に関しては「急性毒性」という観点では化学的毒性が無さそうだ、ということは確かめられていますが、粉塵のような物理的特性の変化が呼吸器に及ぼす影響については全く保証されていません。
EBクロスの粉塵は空気中に飛散しない?根拠なき「安全」の主張
粉塵にならなければ喘息の原因にはならない
大日本印刷製EBクロスの不具合によって生じた壁クロスの粉末が、化学的に安全であるとするならば、空気中に飛散さえしなければ呼吸器に影響を与えることは論理的にあり得ません。よって、EBクロスの粉末が空気中に飛散をしないならば、呼吸器に与える影響はない、と結論づけられます。
裏を返すと、空気中に飛散するならば大日本印刷が示す範囲の安全性試験を持って安全とすることはできない、と言えます。
では、実際に大日本印刷製EBクロスの粉末がどの程度の粒径であるのか、例えば子どもが飛び跳ねたりする環境、日々の掃除などをする中でも空気中に飛散しない程度に大きな(重たい)粒子であるのか、ということが問題となってきます。
この粒径についての試験結果は大日本印刷が「安全性に関する各種試験」の結果には一切示されていません。しかし、先ほどの大日本印刷の資料に気になる文言があります。
7番の急性吸入毒性試験の結果についてです。先ほど示したようにTG436を用いた試験結果として、「吸入による(化学的性質としての)有意なリスク」が無さそうだという点ではその通りと思います。壁紙の破片が呼吸器に張り付いて炎症起こすようでは、日常安心して壁に触れられませんから。。。
ここでは「日常的に使用する限り、検体が空中に浮遊することは恐らく起きないであろう」と書かれています。
この記述は、7項目中その他6つの試験結果の記述とは大きく乖離しています。他の試験結果は概ね「刺激性はない」「引き起こす可能性はない」といったように、かなり化学的毒性の存在を否定しています。
しかし、7番目の吸入試験の項目だけ、かなり微妙な言い回しとなっています。
もしも、大日本印刷製EBクロスから剥奪した壁紙が日常生活の中で粉塵として空気中に浮遊するならば、喘息発作や物理的傷を生じさせることになる結膜炎等の炎症を引き起こす可能性が指摘できます。
そのため、「大日本印刷製EBクロスから剥離した粉末は日常家庭環境において空気中に飛散(浮遊)し得るのか?」が重要になってきます。
ここで、日常家庭環境とは、これは私の主観ですが、子ども、ペット等、室内を走り回ったりする生活者がおり、かつ、エアコン等気流を生じさせる家電機器が使用された状態を考えれば十分と思います。窓からの突風が吹き込んだ場合に巻き上がる粉塵というものも考えられますが、そこまで考えると大抵のものは空気中に浮遊するため、そのような状況はとりあえず考えません。
ただ、大日本印刷自信が「恐らく」としていながら、大日本印刷の言い分は「恐らく大丈夫だから『人体に影響がないことが確認できた』」と言う言い分には強い違和感を感じます。
大日本印刷製EBクロスが剥離した粉末はどのようなものなのか?
大日本印刷製EBクロスの不良によって脆化したあと、脆化したEBクロスは粉末状になり、室内に飛散します。
実際にどのような粉末が生じるのかについてわからないと何も言えません。そこで実際の写真を見てみることにします。
下の写真は脆化した大日本印刷製EBクロスから剥奪した壁紙の粉末となります。
写真を見る限り、かなりの粉末状になっており、見た目だけで「飛散しない」とは言い切れないように思います。また、壁の近くに落ちていることから大日本印刷が言うように「粒径が大きいため浮遊しない」という言い分にも説得力がありそうに感じます。
しかし、写真だけでは、これが飛散するものであるか、飛散しないものであるかはわかりません。
大日本印刷製EBクロスの粉末実サンプル顕微鏡測定
今回、大日本印刷製EBクロスの不良において、大日本印刷が先の安全性試験を持って「安全である」と主張するためには「脆化した剥奪したEBクロスの粉末が空気中に飛散しない」ことは最低限必要な条件です。逆に、飛散が生じ得るとするならば、安全とする根拠は不十分と言えます。
これまで入手している写真等では、脆化したEBクロスが飛散し得るか、それとも、日常環境では飛散し得ないかについて判断することはできないと考えました。
そこで、実際に不良が生じたEBクロスのサンプルと周辺に落ちていたEBクロスから剥がれ落ちた粉末を入手して私自身の手によって測定を行うことにしました。
入手したのは、脆化したEBクロスの断片サンプルは下のようなものです。
そして、もう1点は、脆化したEBクロスから剥奪した粉塵を集めてもらってそれをジップロックに入れて送っていただきました。
それが、下の写真の粉末になります。
私の手元に届いて最初に思ったことは、やっぱり自分で確認しなければダメだ、と言うことです。。。
この粉末を「日常生活では浮遊することはない」と言うには、一目見て無理があると感じました。
私がそう感じただけではなんの根拠にもならないので、個人でできる範囲の根拠を示します。
顕微鏡で測定した結果粒径は数μm~500μm程度
今回、私が手元に持っているAnytyという220倍まで拡大できる顕微鏡でEBクロスから剥離した粉末のサイズを測定しました。
上記が大日本印刷製EBクロスから剥離した粉末です。これは220倍に拡大しており、おおよそ画像の左端から右端までが約2mmとなっています。
中央に縦横に入っている赤い線の1目盛りが0.05mm(50μm[ミクロン])です。
いくつかの粒子のサイズを計測したところ、手持ちの顕微鏡で測定可能なサイズとしては10μm程度から367μmの粒径の粒子があることが分かりました。
また、私の顕微鏡の測定限界の問題から粒径は測定できませんが、10μm以下の粒子も多数存在しており、脆化して剥離したEBクロスの粉塵サイズは数μm~500μm(0.5mm)程度と考えられます。上記画像の1ドットが約1μmとなります。
上記の写真は測定がしやすいように粉塵をばらけさせていますが、実際には下の写真のように大量の粉末が落ちてきます。
大日本印刷製EBクロスが脆化して剥奪する粉末のサイズは分かりました。
次の問題は、数μm~数百μmの粉体は日常生活環境下において空気中に浮遊し得るか?ということになります。
今回粉体の量が少ないため、私自身が実験をすることはできません。また、測定装置もないため測定も困難となります。
そこで、同程度の大きさの粒子は空気中にどの程度飛散するか?という問いに置き換えて考えてみることにします。
空気中を飛散する粒子~黄砂、ダニのフン、花粉~
私達が日常生活の中で、健康上問題を生じさせる「微粒子」として思いつくのは、花粉症の原因になる花粉、ダニアレルギーを引き起こすダニのフン、そして、中国ゴビ砂漠から飛んでくる黄砂などがあります。
これらは、一般的な感覚としては「日常生活においても室内で空気中に飛散しやすい」物質と思います。
そこで、大日本印刷製EBクロスから剥離した粉末が黄砂やダニの糞、花粉などと比較して十分に大きいならば、「粒径が大きく空中に浮遊することはない」と言えます。逆に、これらと同程度のサイズまたはそれ以下のサイズであるならば、「空中に浮遊する可能性が高い」と言えそうです。
最初に、春先になると中国ゴビ砂漠から飛んでくる黄砂は当然のように室内においても空気中に飛散すると考えられます。黄砂の粒径はどの程度であるかについては、1978年に大気汚染学会誌に掲載された論文(溝 畑朗, 真室哲雄: 黄砂エ アロゾルに関す る二, 三の知見, 大気汚染学会誌, 13, 289~297 (1978).)で学術的な測定が行われています。その結果は下の図の通りですが、黄砂の粒径は4μmにピークを持ち、大半の粒子は1μ~10μmの間に分布している粒子となっているようです。
(出典:溝 畑朗, 真室哲雄: 黄砂エ アロゾルに関す る二, 三の知見, 大気汚染学会誌, 13, 289~297 (1978).)
今回、脆化したEBクロスの粉末は黄砂と同程度の粒径のものが多数存在していました。
続いて、ダニのフンですが、こちらについても1991年に公表された論文(空中ダニ.主要アレルゲン.(Der1,.DerII).の粒子径分布と空気中からの減衰)で詳しく調査されています。
(出典:吉澤晋, et al. “空中ダニ主要アレルゲン (Der I, Der II) の粒子径分布と空気中からの減衰.” アレルギー 40.4 (1991): 435-438.)
この論文の調査によれば、アレルゲンとなるダニのフン等の粒径は、7.65μm~15μmが最も多くなっており、次いで5.5μm~7.6μmの範囲のものが多くなっているという結論となっていました。
この結果からアレルゲンとしてのダニのフン等は黄砂に比べて2倍程度の大きさの粒子である事がわかります。
続いて、悩まされている方も多いと思われるスギ花粉などの花粉の粒径はどのようなものでしょうか?これは論文ではありませんが、埼玉大学王青躍氏による電顕写真がありました。
(出典:埼玉大学 スギ花粉由来エアロゾルって、どうなっているの?)
こちらの写真からスギ花粉のサイズは概ね30μm程度と言えそうです。
スギ花粉も、当然、空気中を広く飛散する粒子になります。
花粉、ダニのフン、黄砂と同程度の大きさでも飛散しないの?
ここまで、室内でも飛散し得る粒子として、黄砂、ダニのフン等、花粉の3つのサイズについて見てきました。
それぞれ、4μm、15μm、30μm程度として、大日本印刷製EBクロスから剥離した粉末とサイズの比較をしてみることにします。
上の写真の右上に、赤丸で黄砂、ダニのフン等、花粉と同程度のサイズを示しています。
写真の白いEBクロスの粉末と比較すると、少なくとも花粉サイズよりも小さな粉末は多数確認できます。また、ダニのフンサイズよりも小さなものもかなりの数確認できることがわかります。
顕微鏡の解像度の限界から小さな白い点にしか写っていませんが、黄砂サイズの粉末も相当量存在していることが確認できます。
これらのことから、大日本印刷製EBクロスは、少なくともその粒子のサイズからは大日本印刷が言う「室内で浮遊しない」という話には強い疑問が呈されます。
飛散したクロスの破片の室内滞留時間
では、大日本印刷製EBクロスが脆化し、壁から剥奪したあと粉塵となり室内に飛び散った場合、どの程度の時間空気中を漂うことになるのでしょうか?これが極端に短いならば、呼吸によって粉塵を吸い込んでしまうことは少なく、健康への影響も軽微であると考えられます。
これについては、先のダニのフンに関する論文が参考になります。この論文ではDerⅠ7.65~15μmとして粒径、DerⅡを粒径5.5~7.65μmの粒子を用いて、粒径毎にそれぞれの粒子が室内環境中でどの程度空気中に滞留できるかを測定しています。DerⅡはおおよそ黄砂程度の粒子サイズの粒子となります。EBクロスの粉末で言えば私の持つ顕微鏡で観察可能な最も小さな粒径のものがDerⅡ程度、やや大きな物がDerⅠのサイズに相当します。
(出典:吉澤晋, et al. “空中ダニ主要アレルゲン (Der I, Der II) の粒子径分布と空気中からの減衰.” アレルギー 40.4 (1991): 435-438.)
論文では、DerⅠ、Ⅱのいずれも舞い上がってから5分程度はほぼ全ての粒子が空気中に浮遊し続けていることがわかります。10分経過時点で空気中に浮遊していた粒子のうち細かなサイズのDerⅡサイズで約半分が空気中に浮遊したままになっており、Der1 サイズでは約40%が浮遊したままとなっています。その後30分程度で、DerⅠとDerⅡの90%が床などに沈み、残りの10%は空気中に浮遊したままの状態となり、50分経過後も大きくその浮遊量は大きくは変化しないという結果となっています。
日常の生活環境を考えると、日中の誰もいない状態でエアコンや床暖房なども止まっていれば空気の対流はほとんど起きないため、空気中に舞っているEBクロスはほぼなくなると思います。
しかし、生活者が室内を歩いたり、また壁紙の特性上壁周辺にその粉末が多くあることを考えると、カーテンの開け閉め、窓の開け閉め、壁に取り付けられたエアコンの稼働などがあると常時粉塵は室内に舞った状態になっている可能性が指摘できます。
子どもやペットが室内を走り回ればその度に室内の空気は動きますから、Der1、2サイズの粒子は空気中に再び舞い上がるということを繰り返している可能性が懸念されます。
以上の論文及び、顕微鏡による簡易な粒径の確認から大日本印刷が安全性を示す根拠として用いている資料に記載されている「日常的に使用する限り、検体が空中に浮遊することは恐らく起きないであろう」という部分に付いては、誤っている可能性があると結論されます。
少なくとも、「空中に浮遊しない」とするならば、粒径分布を示し、室内環境における空気中への浮遊時間の計測結果がなければなりませんが、現時点では「検体特有の粒径が大きく」とする部分についても、顕微鏡写真を確認する限り100μmを超える粒子径の大きなものについては確かに「粒径が大きく(中略)浮遊することは恐らく起きないであろう」と言えそうですが、実際にEBクロスから剥離した検体を確認すると、一般に黄砂や花粉、ダニのフン等のアレルゲンと同様に空気中に浮遊し得る粒径(数μm~50μm)のサイズにある粉末が多数確認されることから、浮遊する可能性が極めて高い、と言えそうです。
また、その浮遊時間については概ね気流がない環境で1時間程度と考えられますが、室内を人が移動するような日常環境においてはかなりの頻度で沈降と飛散が繰り返されている可能性が指摘できます。このことから、剥離したEBクロスは室内に居住者がいる場合、呼吸によって肺粘膜に吸入されていると考える方が合理的と言えます。
吸入されたEBクロスは喘息等を悪化させる原因となり得るか?PM2.5、PM10は呼吸器疾患を引き起こす。
剥離した大日本印刷製EBクロスが粉塵として室内に飛散し得ることは確認できました。
では、これらの粉塵を吸引した場合、喘息や結膜炎等の原因となり得るか?という点が議論になります。
この点については、「濃度と環境によって一概には言えない」となります。
少なくとも、私個人としては、分からない、というのが結論となります。先にも示したように、喘息等はEBクロス不具合の有無にかかわらず一定程度発症します。そのため、「ある1つの症例がEBクロスを原因としたものかどうか?」ということは、個人レベルでは到底特定できる物ではありません。
ただし、一定の濃度が存在した場合、近年話題になっていたPM2.5(粒径2.5μmの粒子)、それ以前から広く大気汚染として知られていたPM10(粒径10μmの粒子)のいずれも喘息をはじめとした呼吸器疾患を引き起こすことは分かっており、大日本印刷製EBクロスから剥離した粉末にはPM2.5サイズ、PM10サイズの粒子が多数確認されたことから、喘息をはじめとした呼吸器疾患を引き起こす可能性は強く疑われると言えそうです。
この点については、「安全性」を謳う大日本印刷側に説明と証明の責任があると思っています。
発症メカニズムが分からなければ大日本印刷・サンゲツに責任はない?~アスベストさえメカニズムは明らかになっていない~
EBクロスから剥離した粉末と喘息悪化等の間の関係について因果関係を証明する最も簡単な方法は、「作用メカニズム」を明らかにすることです。
すなわち、EBクロスから剥離した粉末が呼吸と共に肺粘膜に付着し、その後どのようにして喘息の悪化に寄与するかを明らかにするという方法です。
このメカニズムの解明がないと、大日本印刷やサンゲツ等は、「メカニズムが明らかになっていないため自社の責任ではない」と言うかも知れません。
しかし、メカニズムの解明は疫学調査以上に難しいものとなります。
これがどれほど難しいかを示す1つの事例を紹介すると、現在、「アスベストの粉塵は中皮腫を引き起こす」ということは広く認識されているかと思います。しかし、アスベストの粉塵がどのよに中皮腫を引き起こすかのメカニズムについては、あくまで可能性が高いメカニズムの候補が挙げられているだけで、解明には至っていないのです。
このことは帝京大の医学部教授である諏訪邦夫氏のコラム「アスベストと悪性中皮腫 メカニズムの決定的な結論は出ていない」に詳しく書かれています。また、実際に公的機関である独立行政法人環境再生保全機構のサイトにおいても「長い繊維は排除されにくく体内に長く滞留するためと考えられています。」と記述されているように、確定ではなく「そう考えられている」という記述となっており、メカニズムは解明した状態にはないことが確認できます。
中皮腫は一般的には極めて希な癌であり、アスベスト以外を原因として引き起こされる確率が低いため問題が顕在化しました。しかし、これが「喘息」であれば、その難しさはアスベスト以上に難しいものであることは想像に難くありません。メカニズムが明らかにならなければ、確認できない、という言い分は通らないと考えるべきと思っています。
大日本印刷は「人体に影響がない」ことを示せていない
「健康被害がない」ことは示せていない
大日本印刷は、情報を一般に公開せず、リコール等もしない理由として「人体に影響がない」ことを挙げています。
しかし、以上で見てきたように、確かに最小限度の安全性試験は行われており、化学物質として見た場合、剥がれ落ちた壁紙が健康上急性的な影響を及ぼす毒性を持っていない、と言うことは正しそうです。
しかし、微細化した壁クロスの粉末が、喘息、結膜炎、蕁麻疹等々の健康影響を与えないことは、私が入手した資料の範囲では、ほとんど何も確認されていません。
大日本印刷が「人体に悪影響を及ぼすものではないことを確認した」というには、あまりにも不十分な根拠であると言わざるを得ません。というか、言い過ぎも良いところです。
また、大日本印刷が「人体に悪影響を及ぼすものではないことを確認した」とする根拠の一つとして「健康被害の報告は一切受けていない」ということを根拠として挙げていましたが、少なくともAさんの事例1件の存在は、「可能性の指摘」ではあるものの、「一切ない」とはならないだけの十分な大日本印刷が悪影響がないことの根拠としていた1つは否定されたと言えます。
こうして考えていくと、大日本印印刷が「人体に影響がないことが確認されている」と言い切ることは間違いである、と言って良いかと思います。
正しくは、
「EBクロスの脆化事象による人体への影響は粉塵としての特性は不明であるが、急性毒性がないことは確認しており、健康被害の報告事例も少ないことから、恐らく安全であると信じたい」
というようなものが妥当な記述のように思います。
個人的には、上記の記述に変えて、消費者庁や経産省の製品安全課に改めて問い合わせをしてみてはいかがかと思います。
安全性が十分に示せておらず、医師の診断書があっても不十分?
以上をまとめると、現時点の大日本印刷製EBクロスの不具合によって生じた粉末状の物質が、Aさん宅の喘息発作悪化の原因になっていることは否定はできない、という結論になろうかと思います。
もちろんAさん宅の事例だけをもって、健康被害を生じさせているとも結論できません。しかし、健康被害が存在する可能性は否定できていない状況にあることは間違いないように思います。
リコールや一般への不具合情報の存在の公開について改めて消費者庁や経済産業省製品安全課に問い合わせをしてみてはどうかと思います。
EBクロスの不具合に気が付いたらどうすれば良いのか?
ハウスメーカー、工務店、賃貸会社に問い合わせを
もしも、自分の家の壁紙が何かおかしく、不具合を生じさせているのでは?と思ったら、まずは今現在住んでいる家を製造したハウスメーカーや工務店、建売であれば販売会社、賃貸住宅であれば賃貸会社に連絡を入れることをお勧めします。
その際、大日本印刷製EBクロスにおいて不具合があるとの情報があるので、壁紙にサンゲツのEBクロスを使用している場合にはサンゲツまたは大日本印刷に問い合わせをして欲しい旨も伝えるとスムーズかと思います。
販売会社等がどうしてもEBクロスとの関係を認めてくれない場合は、大日本印刷のWebフォームから問い合わせをされてみることをお勧めします。
私が把握している限り、0120ではじまる大日本印刷住空間CSセンターにある「壁紙に関するお問い合わせ窓口」を案内されるかと思います。こちらで確認をされることをお勧めします。
健康被害が懸念される場合は医師に相談し診断書を
今回Aさん宅の事例のように、EBクロスの不具合によって健康被害が生じていることが懸念される場合は、まずは医師に相談の上診断書を入手するようにされることをお勧めします。
その際、医師に、自宅で発生している壁紙の不具合について写真などを見てもらうと同時に、壁紙から剥離したEBクロスの粉末もジップロックなどに入れて見せてこのようなものが室内に飛散している状況にあるということを説明し、医師の判断に基づきその壁紙の不具合が、発症している症状の原因になり得ると考える場合は、診断書にその可能性について言及をしてもらうようにすることをお勧めします。
その診断書を大日本印刷側に提示して話をされるのが良いかと思います。診断書無しで、単に症状が出たという説明では受け入れてくれることはありません。
大日本印刷はどこまで保証してくれているの?
基本的には、生じている問題の回復については全て対応をしてくれているようです。
すなわち、問題の生じている全室の壁紙を全て貼り替えるという対応が基本になります。
その際、キッチンが使用できない場合は食費、室内飼育のペットがいる場合はペットホテルの費用、小さなお子さんがいらっしゃる場合や作業の都合で日数を要する場合は変わりのホテル宿泊費用とそこまでの交通費等、ケースバイケースなところはありますが、壁紙の張り替えによって生じる実際に生じた費用については全額保証する姿勢を見せているように見受けられます。
その他、EBクロスを使用した場所が店舗などの場合、休業補償も支払われているようです。
逆に支払われない費用として、健康被害については、これを認めていないため保証をしていません。また、慰謝料についても支払っている事例は認知していません。
誰が作業を行うの?
ハウスメーカー、工務店等にかかわらず全てのケースで原則として大日本印刷が施工を行っているようです。
この点については、希望があった場合はハウスメーカーや工務店等の担当者も同席する場合も多いようです。個人的には、売った企業の責任はやはり一定程度あると考えています。
実際の支払や作業は大日本印刷が行うにしても一条工務店などであれば「自社標準品」として施工している以上は、最終的な保証は一条工務店が行うべきと考えます。
問題がある対応をされた場合誰にクレームを入れる?
これは壁紙の問題に限らず、多かれ少なかれある事ですが、最近は少し落ち着いたように思っていますが、初期のEBクロス不具合対応については施工者の作業時のクレームが非常に多かった印象を持っています。
そこで、問題になるのが誰にクレームを入れるか?ですが、まずは大日本印刷に入れるのが1つですが、大日本印刷は良くも悪くもBtoB企業で、一般消費者向けのクレーム対応が得意ではありません。サンゲツについては、今回の問題について責任を認めながら、対応の前線には一切出てきていません。企業規模から考えてもこの規模の不具合対応には耐えることができないためと思います。
最も効果の高いクレーム先は、ハウスメーカー、工務店へのクレームとなります。大日本印刷にクレームを入れてもハウスメーカー側にクレームがあった事実が共有されることはありませんが、ハウスメーカー側にクレームを入れた場合は、ハウスメーカー側から大日本印刷にクレームがあった事実が伝えられます。
良くも悪くも大日本印刷は、ハウスメーカー側を向いて仕事をしています。そのため、個人からのクレームよりもハウスメーカー側からのクレームによって態度を変えることがあります。
クレームがないのが一番ですが。。。
株主の方が気にしそうなこと
1000億円の内訳は把握すべきでは?
今回のEBクロスの不具合によって、大日本印刷は累計988億円の特別損失を計上しています。
また、実際に不具合のあるEBクロスを使用している住宅やマンションは約10万戸と言われています。
そして、ハウスメーカー毎の被害戸数は不明ですが、少なくとも標準クロスとして採用していた一条工務店については不具合のあるEBクロスを使用していた世帯数は1万戸を超えるはずです。
そこで、個人的に不自然に思うことがあります。仮に10万戸で、累計特損1000億円と言うことは、1戸あたりの費用は単純平均で100万円となります。単純計算で一条工務店の住宅への対応だけで100億円以上がかかっているということになります。
相場から言うと、1戸あたりの壁紙交換費用は通常40万円~50万円程度と思います。もちろん、吹き抜けがある場合に足場を組む必要があったり、また天井に使用されているケースなどがあれば費用がかさむケースもあるように思います。
また、店舗で使用されている場合などでは休業補償の支払なども必要になるため、金額が増えることもあります。
しかし、10万戸という母集団があるうち、そういった特殊な住宅が大多数を占めているということはあまりないように思います。
10万戸であればおおよそ500億円程度に収まるように思います。昨年度時点までに積み上げられた特損453億円であれば1戸あたりの費用としては45万円程度で、マンション等も多数含まれることを考えると比較的合理的か、またはやや安いぐらいの価格設定であると思っていました。
しかし、今回大日本印刷は人件費の高騰などを背景として535億円を積みまして、これまでの倍となる988億円もの累積特損を積み上げました。
景気上昇やオリンピック前の施工者の人工代上昇、入居済のお宅での作業になるためそこで発生する費用が発生したとしても、平均すれば20万円~30万円/戸の積み増しが普通のように思います。それが一気に1戸あたりの費用を50万円も積みますというのは少し違和感を感じます。
仮に、この特損の積み増しが合理的な判断に寄らないのであるとすれば、それは株主利益を損なった経営判断である可能性もあるように思います。
いったいこの1000億円もの特損は何に使われているのでしょうか?
健康被害の可能性の有無
EBクロスの不具合が健康被害を引き起こすかどうかを最も重視すべきは、実際にその家に住んでいるご家族である事は当然です。しかし、健康被害の有無によって大きな損失を被る可能性があるのは株主でもあります。
これまで大日本印刷は「健康被害はない」ということを前提に、特損1000億円を計上しています。しかし、今回指摘させていただいた様に、大日本印刷が「健康被害はない」とする根拠はかなり脆弱なものとなっています。万が一、EBクロスの不具合が呼吸器系疾患の原因になり得るとなった場合、その損害額は1000億円を遥かに超える者となる可能性もあります。
そのような観点から株主として、健康被害の有無について適切な情報開示を求めることは株主利益保護、及び投資リスク管理の観点から重要なことのように思います。
終わりに:情報の公開をすべきでは?
「健康被害がある」と言いたいのでは無い
誤解をしないでいただきたいのは、私は大日本印刷製EBクロスの不具合によって「健康被害が発生している」ということは言っていないという点です。
私が指摘したいのは、何らの情報を公開しない状態で大日本印刷が「人体に悪影響がない」と言い切っているのは明らかにおかしいという思うということです。
現時点では、大日本印刷製EBクロスの不具合が健康被害を引き起こしているかどうかは全く不明と思います。この記事で「健康被害がある」とは考えないでいただければと思っています。それは、直近の子宮頸がんワクチンと副反応の因果関係調査のミスリードと同じ問題を引き起こす可能性があります。
そのため、健康被害がある・ない、ではなく、まずあるのか無いのかこの点を大日本印刷に自らはっきりとさせて欲しいと考えています。
今回の指摘は、大日本印刷が「人体に悪影響がない」根拠としてあげている2点については、否定まではできなくても、疑義を呈するには十分なものと思っています。
これまで大日本印刷は「健康被害はない」としていたこととは大きな乖離があると思っています。
おわび:できる限り早めに張りかえを
私自身は、大日本印刷製EBクロスの不具合について知った段階では、大日本印刷が被害住宅において「健康被害はない」と説明していることを一定程度信用した上で、急いで張り替えることはないという記事を書いていました。
[kanren postid=”13712″]健康被害が生じないということを前提とした場合、10万世帯にも及ぶであろう不具合のある大日本印刷製EBクロスを使用したお宅が一度に張りかえを希望した場合、対応が混乱することを懸念しました。また、一度に家の中の壁紙を全て貼り替える工事には住んでいる方の負担も大きいことから徐々に張り替えていく方が結果的に、顧客側の負担も少ないであろうと考え、あえて「朗報」という書き方をして、すぐに張り替えるのではなく、大日本印刷が保証するとしている引き渡し後10年の都合の良い時期に張り替えることを推奨させていただきました。
しかし、これは「健康被害は起きない」という前提に立ってのことです。
今回、健康被害の可能性が示唆された以上、上記記事における「都合の良い時期の張り替え」ということは、私自身としては推奨できないと考えていますので、上記記事における推奨を撤回し、お詫び致します。
今回の情報を踏まえて、個人的な意見としては、不具合のある大日本印刷製EBクロスを使用されているお宅では壁紙が剥がれ出す前の可能な範囲で早い段階での張りかえを推奨します。また、既に不具合が出ているお宅では、壁紙に触れないようにしつつ、できる限り早い段階での張りかえをお勧めします。
大日本印刷の情報公開姿勢に対する強い不信
昨年度時点でも、健康被害の可能性は指摘していましたが、壁紙という普段人が触れることを想定したものが健康被害を生じさせる可能性はそれほど高くないと考えていました。また、あくまでその可能性があるという推測に過ぎず、健康被害を生じさせる証拠は一切示せていませんでした。
しかし、その後、不具合のある大日本印刷製EBクロスが施工されたお宅に住まれており、3歳のお子さんがいらっしゃる家庭で、入退院を繰り返す重度の喘息、蕁麻疹、結膜炎等の症状を訴えている方からお話しをお聞きし、また独自に調べていく中で大日本印刷が株主等に訴えている「安全性」に疑問を持つに至りました。
現時点では「大日本印刷製EBクロスの不具合が健康被害を生じない」として、示されている大日本印刷の説明や根拠は不十分と考えています。
今回、ここで示した健康被害が発生し得る可能性の指摘については、既に大日本印刷側には、被害に会われた方から直接連絡が行っており、大日本印刷側も認知していることは確認しています。しかし、現時点においても、大日本印刷、サンゲツのいずれも健康被害の有無はもちろん、大日本印刷が製造した壁クロスに不良があった事実自体の公表もしていないことには、個人的に強い違和感を感じざるを得ません。
大日本印刷製の不良EBクロスを利用していた、一部ハウスメーカー、そして、大規模分譲マンション等では、EBクロスの型番管理補完されていたため、不良EBクロスが使われているお宅を特定し、各社の判断で顧客に連絡し、張り替え等の対応が行われていることを確認しています。これはあくまで伝聞ですので証拠を示すことはできませんが、顧客への通知の過程で「現場の混乱を避けるため」として大日本印刷側より通知を控えて欲しい旨の申し入れがあったとするお話しを複数の関係者から伺っています。
ただ、上記のように、壁紙の型番を控えていなかった小さな工務店や賃貸住宅等においては、本人が不具合に気が付かない限り何らの連絡もなく、また、私のブログのような個人ブログ以外で不具合の事実を確認することもできないことから、「自宅の問題が壁紙の不良に起因する」ということに気が付かれていない方も多くいらっしゃいます。
そして、私のブログをご覧になっていただいて、明らかにおかしな壁紙の状況をを施工会社等に再三問い合わせた結果として、不良が判明するというケースが後を絶ちません。
そういった方の中には、「うちには子どもがいるから」、「ペットがいるから」、「壁紙はそういう物」というように、仕方のないこととしてあきらめられてきた方も多くいらっしゃいます。
大日本印刷は日本にとって必要な企業だからこそ、今きちんとした対応をすべきでは?
最後に、私自身は大日本印刷が今回の壁紙の不良をを隠蔽しようとしているとは思っていません。
おそらくは、できる限り問題を拡大させないよう、自社とその取引先、そして株主を守ろうと必死になっているのではないかと思っています。しかし、残念ながら、ことごとく対応が後手に回り、結果として問題をこじらせているように見えてなりません。
大日本印刷の企業理念は「未来のあたりまえをつくる」となっています。
大日本印刷は近年iPhone Xでも採用され一躍有名になった有機ELディスプレイに大規模な投資を行ってきました。現在iPhoneの有機ELディスプレイを製造しているのは韓国サムスンであるとされていますが、サムスンの有機ELディスプレイ製造に必要不可欠なメタルマスク市場において、高いシェアを有しています。
このメタルマスク市場は、2022年までに世界全体で12億ドルまで拡大すると予想されており、一時は1000円にまで下がった大日本印刷の株価を2000円台後半にまで持ち直させる原動力となりました。
このような急激な回復は一朝一夕に成されたものではなく、大日本印刷がメタルマスクの開発に着手したのは2001年とされています。15年以上に渡る研究開発の結果が、やっと結実しようとしている状況で、まさに2001年時点で夢見ていた「未来のあたりまえ」が目前に迫ってきた状態にあります。
(大日本印刷2016年11月1日~2017年11月1日株価推移)
しかし、そのような過去の投資が結実しようとしている段階でEBクロスの問題が株価の上昇の足を大きく引っ張ってしまう結果となってしまいました。11月9日の中間決算発表で壁紙の不具合に伴う特損535億円の計上を発表した結果、15%近い株価の下落を招きました。
(大日本印刷2016年11月21日~2017年11月21日株価推移)
これは、既に起こってしまったことですからどうすることもできません。しかし、今後何度も同じことを繰り返しし続ければ市場からの信頼は大きく毀損されることは火を見るよりも明らかです。
どこかの段階で、問題を全て出し切って市場の再評価を受けた上で立て直すことが必要ではないかと思います。
大日本印刷には有機ELだけではなく、将来の日本になくてはならないたくさんの技術を有している、日本にとって重要な企業です。
例えば、あまり知られていませんが、野菜や果物栽培に利用される反射保湿フィルムを製造しており、これを通じて効率的農業を実現できる可能性があります。食糧自給の問題、また世界的な食糧生産性は国連が示す持続可能な開発目標(SDGs)においても重要な課題としてあげられています。
また、今後の自動車が自動運転に向かう中で自動車同士の通信や、IoT機器同士の通信が活発に行われると考えられていますが、従来は通信を行っていなかった機器同士が通信を行うにあたって、そのセキュリティ確保は極めて重要な課題です(自動運転車が知らないうちにハッキングされていたら何が起こるかは想像に難くありません)。このIoT機器同士の安全な通信を行うための技術として、大日本印刷は「DNP Multi-Peer VPN」を発表しています。この他、パリ協定批准によって注目を集める水素エネルギーについても、燃料改質に不可欠な水素選択透過膜に関する特許を有しているのは大日本印刷です。
この他にも大日本印刷が持つ薄膜技術、微細加工技術は、量子コンピュータなど将来の技術革新に不可欠な要素技術であり、今後50年を見据えたとき、大日本印刷が開発してきた多数の技術は日本の成長に不可欠なものと思います。しかし、そのような大日本印刷が市場からの信頼を失った先に起こることは、東芝、シャープの事例をみれば分かるとおりです。
日本の将来を日本が決めていくためには大日本印刷はなくてはならないものです。
だからこそ、今、ここで壁紙の問題で市場から淘汰されるようなことはあってはならないと思えてなりません。
そして、現在の10万世帯以上で使われている壁紙の大規模な不具合を一切消費者に公表しない姿勢は今後の市場からの淘汰のきっかけにもなるものと思います。
今後、大日本印刷が適切な情報開示に転じてくれることを願っています。